第84話 美由の危なっかしいさ

「実は、わたしのパパはね。昔からこの地域の漁業を守るために活動してきたんだよ!」


「えっ、美由のお父さんって議員?」


「うん、国会議員なんだ。確かに川口の出した資料のおかげで漁業は守られたんだけどね」


「えっ、美由のお父さんって、国会議員だったの?」


「うん。選挙でたまに名前出てこない?」


「そう言えば結城議員って国会議員いた気がする……」


「でしょう。で、それだけじゃなくて、今度、川口が次の国会議員選挙対抗馬になるらしいんだよ」


「えっ!?」


「今や川口博士は、漁業を守った英雄的だから、今回ばかりは厳しい戦いになるとパパが言ってた」


 国会議員はその時の人気に左右されやすい。


「別にパパは頼まれて国会議員になったから、選挙には興味はないの……でもね、川口だけは議員にしてはならないと言ってるんだよ。もし議員になれば前言を撤回するらしいんだよ」 


 それを聞いた彩芽は、美由を正面から見た。


「……美由ちゃん、もしかして、それって……」


「太陽光事業は、国から大きなお金が落とされる巨大事業だよ。当然、誘致した国会議員も、大きなお金を得ることになる……」


「川口は太陽光推進派になると言うこと……」


「川口博士の論文はわたしも読んだから知ってるんだけども、洋上太陽光設備の収入は漁業を続けていくよりも小さいと言う試算自体には間違いない、と思うよ。でもね、ここ最近、流れが変わってきてるんだよ」


「太陽光推進補助金だね」


「うん、ここ十年に渡っては売電価格を引き上げ、税制優遇すると言う案が国会に提出されてる。パパはもちろん猛反対してるんだけどね」


「川口が議員になれば、漁業組合を裏切るのか……」


「恐らくそうなると思う。別に川口博士は、海の天然資源を守りたいわけじゃないんだよ」


 なるほど、だから美由は川口と言う名前を聞いただけで、彩芽にしてきたことも想像できたのか。


「でも、今のままじゃ、川口を追い込むことは難しくないか?」


「不同意性交罪……」


「それって……」


「同意によらない性交渉が行われていれば、五年以内の禁錮刑になる。ただ、立証が難しい……」


 そうか、確かに彩芽が川口と性交渉をしていたとしても、それを示す証拠がない。


「でも、彩芽ちゃんに頼むことはできない……、わたしも幸人にそんな苦しみを味わせたくない」


 この言葉に彩芽は身を乗り出した。


「具体的にどうすればいいの!」


 彩芽は美由の手を握る。


「……えっ!?」


「性交渉しても身体に何か起こるわけじゃないしさ。それに何回も……その抱かれたから……今更だし……」


 美由も彩芽の手を握り返し、ゆっくりと首を横に振った。


「好きじゃない男に抱かれてどれだけ苦しいか、わたしも女だから分かる。彩芽ちゃんにそんな辛さをもう味合わせられないよ」


「俺たちはここまで来て、諦めるしかないのかよ」


 美由はゆっくりと首を振った。


「無理やりした証拠は別にDNA鑑定だけじゃないよ」


「どう言うことなんだ!?」


「決定的瞬間の証拠写真が撮れればいいんだよ」


「そんなことが可能なのか?」


「わたしか彩芽ちゃん、どちらでもいいから、ギリギリまで焦らして誘いを断ればいい。きっと川口は耐えきれず無理矢理連れて行こうとするはず……」


「なら、一度もしてない美由ちゃんより、わたしの方が……」


「そうかもね。わたしが会った時に完全に振れば、その勢いは彩芽ちゃんに行くことになる……」


「でも、誰が止めるんだよ!」


「幸人が止めてくれないの?」


 美由は俺の組んだ腕にもう一度力を入れた。


「えっ、そんなの?」


「できるよね!」


 その言葉に美由の言葉が重なる。俺は思わず、どうすればいいんだ、と答えてしまう。


「さすがは幸人だよ。本当に大好き」


「えと、そんなに近づいてSPは大丈夫なのか?」


「えっ? わたしSPなんてついてないよ」


「えっ、えええええっ!!」


「銃が当たり前なアメリカと違って、ただの女子高生にSPなんて、流石に親バカなパパでもつけないよ!」


「でも、さっき……」


「だって、あーでも言わないと、幸人はわたしに抱きついてでも止めたでしょう」


「あたり前だ!!」


「ごめん! でもね、あいつは学者の息子だから、無理矢理はないと踏んだんだよ。だいたい学者は、筋を通すからさ」


「だからって……」


「確かに、後先考えなしの行動だったのは、謝るよ」


 俺は大きくため息をついた。


「もう辞めてくれよな。もう、そんな危ないことしないでくれよ」


「ごめんなさい! 次会う時は!!」


「次会うの禁止!!」


「いや、だから……会って振らないと始まらないんだって……」


「それでも禁止!!」


 もう、と諦めた声で俺の頬にキスをした。


「じゃあ、公園にするからさ、そしたら幸人が見張ることができるでしょう」


「それじゃあ、振ったあと、何かあったら助けるのは俺ってことか」


「剣道得意だよね」


「まあ、確かに……」


「じゃあ、大丈夫だよ。撮影は任せてよ」


 それにしても、天使様の危なっかしさ、はないなと俺は恐怖した。

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