第76話 家族団欒?

「幸人、美由ちゃん、ご飯よ!」


 一階からの母親の声に俺たちは顔を見合わせた。


「料理、食べようよ」


「美由は帰らなくていいのか?」


 大晦日が明日に迫ってるため、美由も家族団欒で食べたいだろう。


「大丈夫だよ。ママはね、今日はゆっくりして来なさいと言ってたからね」


「なら、良いんだけどもさ」


 俺たちが降りていくと、姉と母親がくすくすと笑ってた。


「なんだよ!」


「なんでぇーも、……」


 姉と母親がねぇと、顔を見合わせて笑う。絶対、俺たちの会話を聞いてただろ。


「……別にいいだろ……何がおかしいんだか……」


 その言葉を聞いて、美由が俺をじっと見た。


「もう幸人! ダメじゃない!」


「おっ、おい、美由」


「ちゃんと謝るんだよ!」


「……な、何をだよ」


「さっき、プイッと上に上がっちゃったじゃない!」


 そう言って美由は、すみませんでした、と頭を下げた。


「あっ、ああ、わる……悪かった……」


「本当にいい娘さんだよねえ」


 神妙な顔をして母親がうんうんと頷く。


「幸人、良かったね。あんたには勿体なさすぎるよ」


 母親め、ここぞとばかりに俺をディスるなよな。


「美由ちゃん、本当にこんなやつのどこがいいんだかね。姉さんに言ってくれたら、いくらでも良い人紹介するからね」


「大丈夫です! 幸人といれれば、わたし幸せですから……」


 この言葉に家族中からヤジが飛ぶ。いつもの俺なら、逆ギレしそうだが、美由の顔を見ると、メッと怒られた。分かったよぉ。


「それにしても、こんな良い娘が彼女なんて、本当に幸人は最高だね」


「うるさい。食べるぞ……」


「もう、幸人っ……」


 俺が食事を食べだすと美由は呆れた風にみんなにぺこりと頭を下げた。


「いいんですよ」


「そうそう、いつものことだからね」


「でも……」


「美由ちゃんと一緒の時は、こんなぶっきらぼうじゃないの?」


「はい、自分のことをきちんと話してくれますし、悪い時は、ちゃんと謝ってくれますよ」


 美由も余計なこと言わないでいいんだよ。


「やはり、愛の力だね」


「そうでしょうか?」


「うん、違いない……まあ、愚息だけど、よろしくお願いね」


「はい! お母様! それに幸人さんは心の優しい人で、愚息なんかでは……」


 そのフォローいらないからさ。


 俺は何も言わずに食べ、美由が楽しげに家族との会話を楽しむ。こんな形で夕食が進んで行った。




――――――――




「じゃあ、送っていくわ!」


「えっ、わたしはひとりでも帰れますよ」


「いやいや、夜道は女の子一人じゃ危ないよ。ただでさえ、目立つ容姿なんだからさ」


「そうそう、幸人だって一緒にいたいだろうしさ」


「おい、姉さん!」


「違うの?」


「違わねえけどさ……」


「じゃあ、よろしくお願いします」


「あっ、ああ……じゃあ行くぞ」


 俺が一歩足を踏み出すと、美由が嬉しそうに俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。


「おいおい、まだみんなが……」


「いたらダメですか?」


「いや、ダメじゃないけども……」


「じゃあ、良いってことですよね」


 俺は何も言わずに歩く。何も言わないことを同意と取った美由は俺の隣を嬉しそうに歩いた。


「いい人だったなあ」


「やかましいだけだろ」


「そんなことないですよ。みんないい人です。それに……幸人のこと凄く心配してくれてますよ」


「そこは否定しないけどもさ」


「もっと、好意にはありがとうで応えた方が良いですよ」


「……恥ずかしいだろ!」


「そんなこと言っていられるのも今だけかも知れませんよ。いつかは……」


 しまった。どの家庭も家族みんなが揃ってるとは限らないじゃないか。俺は言ってはならないことを言ってしまったと、美由の方を向いて頭を下げた。


「ごめん、美由のおじいさん、おばあさんは……」


「二人揃って健康ですよ。ピンピンしてます!」


「なんだよ、てっきり亡くなってると思って気を遣ったよ」


「そう言うところ優しいですよね」


「優しくねえよ」


「いいえ、優しいですよ。ちなみに今年はアメリカ西海岸に旅行に行ってますので不在ですが……」


「逆にすげえな!」


「ふふふっ、本当は会ってもらいたかったですけどね。一応、メールではご報告してますよ」


「そっ、そうなのか?」


「はい」


 その評価がどうなのか、知りたいが知るのが怖くもあった。そう言っているうちに俺たちは駅に着いた。


「ここから電車で二駅、降りたらすぐですので、ここまでで大丈夫ですよ」


「いや、そう言うわけには行かないよ。万が一のことがあったらな」


「別にいつも帰ってる道なので、大丈夫ではあると思うのですが……」


「それでもだ……美由は俺の彼女だからな。彼氏として責任を持って家の前まで送り届けるよ」


「分かりました。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね」


 そう言って俺たちは電車に乗るため、改札を抜ける。


「あれ! 幸人!! あなた……えっ!?」


 その声に俺は振り返る。聞き逃すわけがない。やはりか。そこには、彩芽が不審そうな顔を歪ませていた。


 と、同時に、俺に絡めた腕に力が入る。


「み、……美……!?」


 これはやばい。彩芽が明らかに殺気立っている事がハッキリと分かる。


「あなた……だれ? 幸人のなんなのよ!!」


 駅構内に彩芽の怒声が響き渡った。

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