第70話 帰省
「聞いてますか?」
「あっ、うん……もちろん聞いてるよ」
「だから、帰省している時、どのタイミングでもいいので、一度うちに来て欲しいのです!」
「年末はバタバタするだろうし、年始のご挨拶も兼ねて行った方がいいよね」
「別にそちらも予定があるだろうから、空いてる時間でいいですよ」
美由の家にご挨拶に行く。その事実に俺は少し焦っていた。確かに美由とは結婚を前提に付き合いたいと思ってるし、美由が俺を嫌いにならない限り、一生一緒にいたい。
でも、親に挨拶に行くのは高校生の俺にとってはかなりハードルが高い。
「年始のご挨拶も兼ねて二日とかどうだろうか」
それに俺みたいな男が彼氏だと知って、お前みたいな奴にやれるか、と言われる可能性を考えると正直気が乗らないのも事実だ。
「幸人、ごめんなさい。こんなことになってしまうなんて思わなかったから……」
そりゃ、大切な娘を取られるようなもんなんだから、父親としては複雑だろう。会って白黒つけたいと言うのが本音ではないか。俺は美由を安心させようと頭を撫でた。
「はうっ、……」
美由は嬉しそうに口角を下げる。世の中の大半の女の子はセットした髪が乱れるから嫌がるそうだが、美由はあまり気にしないようで、髪の毛を触ると嬉しそうにされるがままにしていた。
「いいんだよ。どこかでご挨拶しないと行けないとは思ってたからね」
「ありがとう。お母さんにそう伝えておきますね」
美由の父親は寡黙な人で普段は感情を口にしないそうだ。お前なんかに娘をやれるか、と言われないか、今からハラハラしていた。
「それで、幸人はいつ帰省するつもりですか?」
「俺は31日に帰ろうと思ってるんだけどね。美由はどうする?」
「じゃあ、わたしもその日に帰ろうと思います……」
「分かった。じゃあ、明後日、一緒に帰ろうか」
「はい。それとですね!」
美由の頭を撫でていると、俺にピタッと抱きついてきた。
「えっ、あっ、ああ……」
両腕を美由の身体に回すと柔らかい二つの突起が俺の胸に当たる。これは最高のご褒美なのだが、正直下腹部が反応しそうで、俺は鎮まってくれと心の中で唱えた。
「あのですね。その……」
この体制は嬉しいが、かなり辛い。美由は男のことを分かってないだろうが、こんなことされて、平静でいられる男はいないのではないだろうか。
「初詣、一緒に行きませんか?」
俺は理性を総動員して、鎮まってくれと念じた。ただでさえ膝上10センチのミニスカートがやばいのにこの柔らかさは理性がいつ吹っ飛んでもおかしくはない。
「……えと、聞いてますか?」
美由は女の子だから男の性に関して無知なのだろうが、男は強い性衝動に抗えない。俺だから我慢できているが、他の男にこんな事したら、今頃美由はベッドに押し倒され、無理やり挿入されているだろう。
「幸人!! 聞いてますか!!」
「えっ、ご、ごめん。なんだったっけ?」
「初詣ですよ、幸人が嫌でないなら、一緒に行きたいなあ、って……」
「あっ、ああ……それなら大丈夫かな」
「良かったです! じゃあ、ご挨拶も兼ねてお正月に幸人の家に行きますね」
えっ、ちょっと待って……。それをされないために黙っていて欲しいと言ったのだが……。
「ちょっと、家に来られるのはまずい……」
「なぜでしょうか?」
「正直、付き合ってることがバレたら、家族総出でお祝いとか言い出しかねなくて、面倒なんだよ」
「あー、なるほど……そう言うことでしたか」
美由は理解してくれたようで、ニッコリと微笑んだ。
「分かってくれたか?」
「はい、それなら、もう手遅れかと……」
満面の笑みを浮かべて上目遣いに俺を見る。
「えっ、どう言うこと?」
「今日、お母さんが一度ご挨拶に行くと言ってましたから……」
「えっ、えええっ!!」
「駄目でしたか?」
「駄目……じゃない」
ここで駄目と言ったら、人間失格の烙印を押されるだろう。きっと家に帰ったら家族総出で出迎えられるだろう。正直に言うと、帰りたくない。
「そうですか……良かったです!」
美由は手をパンと合わせてニッコリと微笑んだ。その姿があまりにも可愛くて、そのまま押し倒しそうになる。俺の理性よ頼むから踏みとどまってくれよ。
そのまま、美由は俺の胸に飛び込んで、ベッドに倒れ込んだ。
「えへへっ、押し倒しました!」
美由は無邪気に笑っているが、俺の理性はいつ飛んでもおかしくない。
「あのさ、美由……」
「はい!?」
美由は男の怖さを理解してないのだ。ちゃんと話しておかないとどこかで、間違いを犯してしまいそうだ。それに、俺だから我慢できてるけど、他の男にこんなことしたら、何が起きても不思議ではない。
「男ってさ。身体に大きな爆弾を背負って生きてるような生き物なんだ」
「爆弾ですか?」
間違ってはいないが、理解はしてくれないか。
「そうだ。女の子と違って、男は性欲に支配されてるんだよ。だからさ、正直、今でも結構我慢しててさ」
その言葉に美由は抱きつく手に力を入れた。
「少しは理解してるつもりだよ。わたしも年頃の女の子だからね。ここでしょ、ここが大きく……」
美由は俺のズボンの上から下腹部を軽く触った。俺のなけなしの理性が吹き飛び、大きく立ち上がる。
「元気ですね!」
「いや、だから……やばいって」
「これが自然だと教わりましたよ」
「えっ、どこで?」
「女の子が性教育受けてるの知ってますよね」
そう言えば、保健体育の授業の時に女の子と別々になって受けてたっけ。
「男の子の性欲と愛情が別なことも、そして性衝動が強いことも教わりました」
「じゃあ……なぜ……」
「幸人……わたしは幸人だから抱きついてるし、幸人のだから……触ったって、その嫌じゃないですし……大きくなる、と少し嬉しいです……」
美由の顔は驚くほど赤かった。
「まだ、その……わたしたち高校生だから、そのそう言うことに応えられるかは、分かりませんが、幸人が嫌でなければ、しばらくくっついていたいです」
美由はそう言うと俺の唇に自分の唇をくっつけた。最初のキスよりも遥かに長く美由のドキドキと言う強い鼓動を感じる。
「間違いが起きたら……」
「……大丈夫だよ。もし我慢できなくなったら、その……してもいいよ。わたし……その準備はしてますので……」
その言葉が、避妊具を指すことは間違いない。ごめんよ、美由。俺はその言葉に失われていた理性が復活した。
「今は、その時じゃないよ。いつかは美由を抱きたいと思う。でも、それは今じゃない」
「幸人ありがとう。本当は少し怖かったんだ。幸人とは一つになりたいけど、心の準備はできてなかったから……」
「性欲と愛情は違うと言う人もいるけど、俺はそうは思わない。美由のことをもっと理解して、ちゃんと責任を取れるようになってから、一つになりたいと思う」
「うん、ありがとう。これからもよろしくお願いしますね」
「うん、これからもよろしく」
俺はそう言うと美由に優しく口づけをした。
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