第68話 間違えなんかじゃ、絶対ない!!
「はい、ケーキ持ってきたよ!」
美由の持ってきた、いちごケーキは市販のものより二回りは大きく、沢山のいちごが載っていた。
「もしかして、この時のために取ってきたのか?」
「うん!」
そう言えば半日、イチゴ摘みに行ってくるよ、と出かけた時があった。友達に誘われた、と言っていたがこのためだったのか。
「ありがとう。食べていいか?」
「だーめ」
「えっ、なんで?」
「じゃーん!!!」
美由の手には一本のロウソクが握られてた。
「なぜ? 一本だけなんだ?」
「わたしたちが恋人になって一年目だからだよ。これから一本ずつ増えていくんだ」
「そ、そうなのか?」
「そうだよ」
美由は、はにかみながら微笑んだ。
「じゃあ、火をつけてよ」
「あっ、ああ……」
俺はおずおずとした手で、ライターで目の前のロウソクに火をつけようとする。
「えっ!?」
そのロウソクを持つ手に美由が軽く手を添えた。
「初めての共同作業だね!」
「あっ、ああ……実感湧かないけどな」
「それはね……ちゃんと告白してないからかもね」
「あっ、ああ、そうだな」
「じゃあさ、幸人からどうぞ!」
「えっ、ここでするのか?」
「うん、ロウソクの前で誓うんだよ!」
ゆらゆらと揺らめく赤い炎が今の俺には幻想的にすら思えた。
「俺さ、色々と理由つけて、ずっと美由と釣り合わないからとかさ、実際遠い存在だと思ってた。美由は学園のマドンナだし、天使様だしさ。俺は陰キャで、美由と釣り合うのは陽キャのグループだよな、って……」
「うん、そんな風に見えてたよ。一番近くにいるのに、なんか遠くて、近づいていけないみたいなオーラがあった」
「だよな。でもさ、じゃあ簡単にはい、どうぞ、とは思えなくて、美由が選んだ男ならいいかな、とは思ってたけどさ。でも、そう言いながら、弁当作ってもらうことも、料理作ってもらうことも、そして悪いと思いながらも掃除してもらってることも、どれも辞めて欲しいとは言えなかった」
「どうして……釣り合わないと思ったの?」
「それは……」
「わたし、根は陰キャで嫉妬深い普通の女の子だよ」
美由は俺の頬に自分の頬をつけた。
「えっ……」
「恋人同士なんだから、いいでしょ」
「あっ、そ、そうだな」
「わたしは、色々と作戦考えたんだよ。なんとか嫉妬してくれて、奪ってくれるのを望んでたんだな。川上先輩の話ももっと早くにきっちりとお断りできたんだよ。でもさ……」
美由の顔が目の前にある。その瞳からつーっと涙が流れた。
「あっ、あれ……嬉しいはずなのに……、やっと叶ったのに……なぜ、涙が……」
「ごめんな。色々と理由つけて、美由から逃げてたのは俺だったのかも知れない。あまりにも可愛くて、無理だと思おうとした。その方が美由は幸せだと思ってたんだよ」
美由はハンカチを取り出して、涙をそっと拭く。
「遠回りしたね」
「そうだな」
「でも、良かったよ。幸人が誰かに取られたら、どうしようと思った」
「それなら、俺の方が……」
「それに関してはごめんね。ラブレター騒ぎでちゃんと断らなかったのもわざとだし、今回のクリスマス会もね。なんとなく、そうなんじゃないかな、と思ってたの。大和くんがイライラしてたのは、幸人だけじゃないんだよ。分かってるのに、距離をなかなか近づけない私にもイライラしてたんだよ」
美由は俺に嫉妬してもらいたかった。今回みたいに、奪い去って欲しかったのか。
「だから、おあいこなんだ……」
電気が消された部屋にロウソクの炎と窓から差し込む月明かりだけが輝き、その光景は幻想的にさえ思えた。
「俺は誰よりも美由が好きだ」
「わたしもだよ。初めて会った時から好きでした」
美由はゆっくりと瞳を閉じる。
「えっ、えと……あっ、ああ」
これはオッケーなんだよな。お互い告白したんだから、キスしてもいいんだよな。美由の唇がキラキラとしていて妖艶にさえ見えた。
「あっ、あ、あ……」
本当にしていいんだよな。俺たちは恋人同士だから……そして、瞳を閉じたということは、キスしてもいい、ってことだよな。俺は胸が張り裂けそうにドキドキしていた。
躊躇っていたらダメだ。ここでしないと、また振り出しに戻ってしまうかも知れない。
俺はゆっくりと唇に近づき、キスをしようとした。
「あっ、あれ?」
それと同時に美由が瞳を開く。やばい、間違えた。俺は慌てて美由から離れようとした。
「ごめん、違うよな。早すぎるよな……もっと順を追って行かないとダメだよな」
その時、美由が一気に俺に顔を近づけて……。
「えっ、ええっ」
口にそっと触れるような優しいキスをした!!!
「早すぎることはないよ。幸人はなんにも間違ってない。わたしが思った通りだよ」
「じゃあ……」
「タイミングが合わなかっただけ……それだけだよ!」
「良かった……間違えたと思って、嫌われてしまった、と思って……」
「間違えても、そんなことで怒らないよ!」
「そうだよな。ごめんな、俺ひとり慌ててさ」
「いいんだよ。こう言うことは女の子の方が度胸あるんだよ。ねっ、今度は目を開けないから、もう一回キス……しようよ!」
「えっ、あっ、ああ」
俺はその日、美由と2回目のキスをした。軽く塗った化粧の匂いがして、顔を近づけると唇の柔らかさと、ほのかに香るいい匂いがした。
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