第67話 奪還
「ほら、連れ去ってきたよ!」
「よくやったぞ!」
俺が会場から出てくると大和がガッツポーズをした。
「ありがとう。大和くんのおかげだよね。こんな幸人見たの初めてだったよ」
「焚き付けてよかった。いつまでもつかず離れずなふたりを見るのもうんざりしてたんだ!」
「えっ、運命の分かれ道だって言ってたろ!」
「本人に聞いてみたら?」
美由が二次会のカラオケに上手く騙され、行ってしまったら、俺の元にもう戻ってこない、と聞いて本当に焦った。
「なあ、もし……俺が二次会に参加しなかったら、それでも周りのこと考えて参加してたか?」
「それは、あり得ないかと、だって……、幸人のいない二次会なんて参加する意味なんてないもん」
ニッコリと笑顔で笑う顔が俺に向けられたものだと分かり、ドキドキする。
「そうか……そうだよな。やっぱりそうだったか……」
俺が深くため息をつくと大和は肩に手を載せた。
「まあ、そうだろうな」
「えっ、大和知ってたのか?」
「だってさ、美由ちゃんが幸人以外の男子生徒と仲良くしてる姿とか想像できないからさ。それにさ、美由ちゃん、幸人がいなくて、それでも我慢して参加し続ける娘だと思うか?」
「てことは?」
「まあ、いいじゃねえか。このくらい焚き付けないとお前は本心出さないんだからよ」
「本当だよ! 良い人ができなら、と聞いたよ! それってわたしに失礼だよ!」
美由は俺の弱気な性格がどうしても理解できなかったそうだ。できれば奪って欲しい、とずっと思ってたらしい。
「だからね、クリスマス会が無茶苦茶になるかも知れないのに、わたしに手を差し伸べてきた幸人がとても、カッコ良かったんだ」
そう言って美由は俺に抱きつく。
「ちょっと、恥ずかしいよ」
「いいじゃん。誰も見てないし……」
「大和が見てるだろ!」
「あー、俺は帰るから気にしないでいいよ。ちょうどラスト近くまで漫画が完成してたからな、このラストで出版社に持って行ってくるわ」
「そう言えば、大和くん。ラスト付近で悩んでたんだよ! だからこそ、焚き付けたかったんだよね」
「ああ、良かったよ。これで振られたら漫画完成しないからな」
「おいおい、それって本当に俺たちの漫画になるんじゃないかよ」
「そうだよ。もちろん名前や展開は変えてるけどな」
そう言って大和は手を振りながら、家に帰って行った。本当に大和って生粋のイケメンだよな。
「じゃあ、わたしたちも幸人の部屋に帰ろうか!」
美由が俺の腕に手を回してぎゅっと力を入れた。
「ちょっと、美由……ちゃん。あのさ……当たってる」
「そんなの気にしないよ。それと、美由ちゃんじゃなくて、美由!! だよ!!」
美由が気にしなくても俺が気にするんだよ。美由の胸をチラッと見たが、かなり大きい。
「見せてあげよっか!」
「いやいやいやいや……」
「冗談……だよ!」
「冗談なのかよ!!」
「さて、どうでしょうか?」
「どうでしようか、って」
美由は悪戯ぽい笑顔で俺を見た。
「幸人は胸の大きな娘は好きですか?」
「俺はどっちでも、美由なら良いかな」
「じゃあ、胸の大きな娘が好きってことで……」
「なんだよ、それ」
「だって、わたし結構大きいでしょ。実はDカップあるんだよ」
その声に俺は思わず、ガン見してしまった。
「幸人のエッチ……」
「ちょっと……美由!?」
「冗談……だよ!!」
美由は舌を出してニッコリと笑った。
「じゃあ、幸人の部屋に行って、お祝いするかー」
「その前にケーキ買って帰らないと……」
「大丈夫だよ。用意しておいたからね」
「もしかして手作りとか?」
「もちろんだよ!! 市販のケーキじゃ、味気ないもん」
「いつも思うけど、凄いな」
「期待してよ。結婚したら料理だけは自信あるからね」
「えっ、結婚って気が早くない?」
「えーっ、そんなこと言うの? こんなペンダントプレゼントしておいてさ」
「それは……」
美由は俺の目の前に回って、顔を近づけた。
「それは!?」
「いや、なんでもない」
花言葉は別にして、美由と付き合いたいと思ってたのは事実だ。それに美由なら、結婚前提でも全然問題ない。
「わたしさ……」
「うん?」
「結構、嫉妬深いかもよ」
「……そうかもな」
「えーっ、なに、それ!?」
「だって一途だよな……、てことは浮気とか許さないタイプだよね」
「へへへっ、そうかもね」
「まあ、俺にはその相手さえいないから安心だよ」
それを聞いて美由は頬を膨らませた。
「そんなことないんだよ。幸人は気づいてないだけ、髪の毛とか少し弄って、メガネもコンタクトに変えたりしてさ。イメチェンはかれば、結構良い線いってるんだよ」
「えっ!? そっ、そうなのか?」
「そう言うとこと鈍感さんだね。実はクラスの何人か、男の子に協力したでしょ。あの何人かは幸人狙いの娘がいるの知ってるんだ」
そんなことあるはずないが、ただ確かに今日仲良く話しかけてくれた娘はいたよな。
「浮気、しないでね!」
「もちろんだよ」
「本当だか……」
「本当だよ!!」
「まあ、いいや。寒いし帰ろうよ!」
そう言って美由は俺の腕を自分の方にぎゅっと引き寄せた。
「おいおい、これじゃ歩けないって……」
「あははははっ」
それにしても、今日から本当に恋人同士なんだよな。その事実に俺はまだ全く実感が湧いて来なかった。
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