第66話 告白
「じゃあ、ちょっと行って
「ああ、頑張れよ!」
拐ってくるもないかと思うが……。だが、俺はその言葉を言いながら心が昂ってくるのを強く感じていた。今までずっと周りの表情ばかり見て生きてきた。その俺が大きな事件を起こす首謀者になる。
色々と言い訳をしてきたが、俺は結局美由を誰にも取られたくなかった。だから、他にいい人が見つかったら、と言いながら、弁当を作るのをやめるように言わなかったし、部屋の掃除も喜んで受け入れてた。晩御飯だって作ってもらって来たんだ。
俺が部屋に戻ると、おお、戻ってきた、と数人が言葉をかける。でも、それは事情の知らない後ろの席の悠一や大和の友達だ。美由の周りにいる奴は、俺の事など全く気にせずに美由を口説いていた。
「なあ、いいじゃん。行こうよ……」
「えっ、でも……本当に……来るんだよね?」
主語がハッキリしないが、美由は俺を本当に誘うのかを確認している。席に戻ると、ねえと俺に声をかけて慌てて止められていた。
「だから、サプライズだって、美由ちゃん!」
「あっ、ああ、そうか……」
美由よ、騙されるなよ。こいつら下心の塊だぞ。
「ねえ、わたし……行った方がいいかな?」
友達に声をかけるが、美由の友達と男子生徒の間で話が出来上がってるんだから、否定するわけがない。
「そりゃ、行くべきだよ! 私たちも参加するからね。美由って、あまりこう言うところ参加しないよね。今日は彼も参加するんだしさ……」
彼と言いながら俺をチラッと見る。名前を言わないの流石だな。サプライズなんて、あるものか。
「なあ、美由!」
「はっ、はいっ!!」
俺はいつもの美由ちゃんではなく、美由と呼び捨てで呼んだ。美由は俺の彼女だ。だから、これからは美由ちゃんではなく、美由と呼ぼうと決めた。
「えっ!?」
それを聞いた美由を口説いていた数人の男子生徒があからさまに敵意のある視線で睨みつけてきた。言葉には出さないが、俺が呼び捨てで呼んだ事が相当気に入らないようだ。
「俺、帰ろうかと思うんだけどさ。美由もうちで一緒にクリスマスしないか?」
「……えっ!?」
美由は相当びっくりしたのか、おどおどしていた。きっとサプライズで俺も参加すると思ってるからだろう。
「美由、どうする。俺は二次会のカラオケには呼ばれない。美由はそれでも二次会に参加するか?」
この言葉に美由の瞳が動揺した。
「ほら、おいで……」
「……うんっ」
美由は俺の手を握ろうとする。
「ちょっと待てよ! 柏葉、空気読めよ!」
「はあっ?」
「みんなでクリスマス会をやってんだぞ。なのに、お前らだけ先に帰ったら、場が白けるじゃねえかよ!」
「その言葉、言い直してやるよ。美由がここで帰ったら、男どもの欲望まみれな二次会が潰れるんだろ? はっきり言えよ!」
「はあ、何言ってるんだよ?」
「美由、誘われたよな。二次会のカラオケボックス。そして、俺も来るから、サプライズだからってさ」
「うん、誘われたよ!」
美由は俺の言葉にすぐに同意した。俺のいつもと違う雰囲気を感じ取ったんだろう。
「二次会さ、俺誘われないよ」
「なんでだよ。これから俺たちは柏葉くんも呼ぼうと思ってたのに……」
「そんな簡単な嘘、引っ掛かるかよ。そもそも席がおかしいんだよ。俺と美由が隣じゃないとおかしいじゃねえか。俺たち付き合ってるんだからさ」
この言葉に美由は、とても驚いた表情で俺を見て、俺の手をぎゅっと握った。
「そ、そうだね。わたし、幸人と帰るね。ごめんね、みんなは、これから楽しんでね」
焦っているが、俺の言いたいことに気づいてくれたようだ。
「えーーっ、柏葉と美由って付き合ってたの? 知らなかったよ。美由、ごめん。このクリスマス会は美由とどうしても話したい。付き合いたいと言う男子に言われて、仕方なく企画したんだよ」
「そっか、そうだったんだね。でもさ、クラスにはわたしよりも可愛い娘たくさんいるからね。わたしは、幸人がいるから無理なんだ……、ごめん」
美由は本当に律儀だな。申し訳なさそうに手を合わせて謝った。美由を口説こうとしていた男子生徒達は、とんでもない告白をされて、意気消沈していた。
「ねっ、いつ告白されたの?」
美由の女友達が不思議そうに美由に聞いた。
「これだよ、これ……」
美由が身につけていたペンダントを指差す。
「これね、幸人のはじめてのプレゼントなんだ。でね……」
美由は俺の手に巻かれた時計をみんなに見えるように俺の手を上げた。
「これがわたしの返事だよ!」
聞いた男子生徒たちは意味も分からずにどう言う事だよ、と女子生徒に聞いている。
「もう、あなたたち花言葉も知らないの? アイビーの花言葉はね」
「そう、永遠の愛!! だよ」
美由はとびきりの笑顔でそう言い、そのまま俺に抱きついた。
「嘘だろ……おい」
「美由ちゃん!! なぜ、柏葉なんかに……」
「えへへへっ、幸人、ずっと好きだったんだよ。再会した時、ひとり居眠りしてて、あー、可愛いなあって……」
「えっ、美由と柏葉って、知り合いだったの?」
「違うよ。わたしの片思いの人だったんだよ。幸人はわたしが一番苦しい時に寄り添ってくれた恩人。その時から、ずっと好きだった」
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