第65話 クリスマス会 その2

 どうして陰キャの俺がクリスマス会なんて参加してるんだろう。


 俺が会場に入るとクラスの主要メンバーが揃っていた。


「遅かったね。ほら、柏葉はそっちの席ね」


 美由の友達が席を決めてくる。なんだよ、これは……。


「じゃあ、わたしも幸人の隣に行こうか?」


「いいの、いいの。美由はここにいてよ」


 席順に恣意的なものを感じてしまう。


「ねえ、美由ちゃんはさ、彼氏とかいるの?」


「えっ、その、あのっ……」


 隣の席の男子から聞かれた美由は焦った表情で俺をチラッと見る。いや、俺のことなんか気にしなくていいんだって。


 美由のいる席と俺たちの席に格差を感じる。目の前に座る大和が不安そうな顔で俺を見た。


「いいのか? 俺が結城さんと代わってやろうか?」


「いや、向こうは向こうで盛り上がっているようだしさ」


 美由は心底喜んでるようには見えないが、時折笑顔で話に応じていた。


「美由ちゃんは、俺の彼女ってわけでもないし……」


「なぜ、そんなに弱気なんだよ」


 大和は美由と交代することをやめて、深く座った。大和推しの女の子らも、一緒に座ってるようだ。


「なあ、さっきも言ったけどさ。お前、結城さんとどうしたいわけ?」


「なぜ、怒ってるんだよ」


「これが怒らないわけねえだろよ!」


 大和のイライラが最高潮に達しているのか、テーブルを強く叩いた。隣の大和推しの女の子が慌ててコップを押さえた。


「ちょっと、大和くん。溢れるって……」


「あっ、悪い……、それよかさ、ちょっと外でようや」


「えっ……」


 大和が苛立っているのに気がついたのか美由が少し焦っているように見える。


「ちょっと、大和と話してくるよ」


 俺が美由に一言声をかけると、美由は大丈夫と声をかけてくる。


「うん、ただ話し合うだけだからさ」


「まあ、それならいいんだけどさ」


 俺が席を立って、大和と部屋を出ると楽しそうな男子生徒の声が聞こえた。


「俺さ、美由ちゃんの彼氏に立候補しようかな」


「何言ってるんだよ! 俺の方が本気だってさ」


 まるでクリスマス会じゃなくて合コンのノリだ。


「で、さっきは怒ってすまなかったが、お前本気で分かってないのか?」


「本気でって、何のことだよ」


「まじか……こんな鈍い奴がこの世にいるとは思わなかったよ」


「悪い……美由ちゃんが気にかけてくれるのくらいは分かるよ。でも、釣り合いなんて全く取れないし……、クラスの中では美由ちゃんに声をかけてる奴らの方が彼氏に相応しいかな、と」


「それ、結城さんの前で言わない方がいいよ。悲しむからさ」


「分かった。俺も何となく美由ちゃんが俺のことを特別に感じてくれてるのかな、と思うことはある。でも、俺と美由ちゃんだぜ。きっと上手くいかないよ」


 俺の言葉に大和は大きな溜息をついた。


「今が運命の分かれ道だったらどうする? あいつらは結城さんを二次会に誘うだろ。そこには絶対お前は入らない。まあ、来ると嘘は付くかも知れないけどな。それでも、まあいいかと言うのか」


「まあいいとは思わない。ただ、空気を読まないで行動したらこの会を潰してしまうかも知れないだろ」


「どうせ、この会は結城さんを口説くために作られたものだよ。結局さ、お前が頼りないから舐められてんだよ」


 そう言って大和は空を見上げた。


「あのさ、寒いんだけどな……」


「12月なんだから当たり前だ。我慢しろ」


「我慢できないほど寒くなってきたけどな」


「まあ、すぐ終わるからさ」


「分かったよ」


「結城さんは、かなりアプローチをしている。それで動かないとなると、どうなるか分からないぞ。だからさ、俺が最後のアドバイスをしてやる。従うか従わないかは、お前次第だよ」


「アドバイス!?」


「そうだ!!」


 そう言って大和は俺をじっと見た。目が本気だ。


「きっと今、結城さんは、お前も来るから二次会に来ないか、と誘われている。だからさ、今から部屋に戻って結城さんを奪って来い」


「えっ、何言ってるんだよ」


「いいんだよ。帰るから、美由ちゃんも一緒に帰らないって言えばいいだけだ」


「……それ、俺が言わないとダメか?」


 それを聞いて大和は頭を抱えた。


「お前が言わないで誰が言うんだよ!!!」


「でもさ! もしかしたら俺のこと面倒な弟と思われてるだけかもしれないじゃないか。一緒に帰るの断られたら、ショックで寝込むぜ」


「断られない! 絶対にな!!」


「なぜ言い切れるんだよ。俺よりイケメンなやつなんていくらでもいるし、優しいやつだっているかもしれない。俺なんか平凡で目立たない、どこにでもいる男だぜ。なのに、なぜそんな俺に美由ちゃんが惚れるんだよ!」


「もういいわ! 自分で気づいて欲しかったけどな。お前は結城さんにもう告白してるんだぞ!」


「はあ?」


「お前は結城さんの誕生日に何をプレゼントした?」


「ペンダントだよな?」


「何のペンダントだった?」


「アイビーだっけか?」


「そのアイビーの花言葉は何だ?」


「そう言えば大和、店員が花言葉を言おうとしたのを遮ったよな」


「当たり前だ! アイビーの花言葉は永遠の愛なんだからな」


 俺は大和の言葉に頭を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。


「美由ちゃんは……花言葉のこと……」


「知らないわけないだろ!!!」


 胸が引き裂かれるように痛い。そうか、美由は花言葉を知って、それでも俺のプレゼントを受け取ってくれてたのか。


「分かったか。花言葉聞いたら絶対買わなかったよな。結城さんにプレゼントできなかったよな?」


 ああ、だからあの時、大和が店員の言葉を制したのか。


「分かった。行って奪ってくるよ!」


「俺はここで待ってるよ。お前が参加するから来たが、こんなつまらないクリスマス会なんて、潰してやればいいんだよ!!」

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