第64話 クリスマス会?

 美由の怪我は大きなものではなかったため、1週間もすると退院になった。大和が警察の事情聴取に対応してくれたため、美由は怪我を見せたくらいで済んだ。


 結局、山本と上村は強姦未遂で少年院送致が決まり、退学が決まった。澤村に関しては実行グループではあるが、脅されて行ったと分かり、学校からの厳重注意に留まったようだ。


 美由の母親は俺に色々と聞いてきたが、俺の反応が面白いのか、それとも美由を揶揄うのが好きなのか知らないが根掘り葉掘り聞いてきたが、三日もすると、これからも美由のことお願いします、と意味深な発言を残して帰っていった。


「なんだったんだかな」


「なんだったんだろうね」


 そう言いながらも、美由は嬉しそうに俺に抱きついてくる。最近はスキンシップが多くて正直ドキドキする。俺たちそんな関係じゃないんだけどな。


「あのさ、今年の……ね」


 期末テストも終わり、終業式まで後数日を残すばかりになった頃、美由が何かと俺に声をかけては気まずそうにしている。


 今年なんかあったっけな。恐らく年末は実家に帰らないとうるさいと思うけどな。


 学校でもあの事件以降、多くの生徒達に俺たちの関係が知れ渡ることになってしまった。後ろの席の悠一がすごく意味深な顔で俺を見てくる。


「なあ、彼女さっきお前のこと気にしてるようだったぞ。何かしたのか?」


「知らねえよ。それと彼女じゃないからな。ただの友達だぞ」


「へえ、友達……ねえ」


「なんだよ、友達以外に何って言えばいいんだよ」


「まあ、いいけどさ。それよりも、弁当の時間みたいだよ」


「ちょっと幸人、借りていい?」


「ああ、持って行って、持って行って……」


 美由はあの一件以来友達であることを隠さなくなった。


「さあ、屋上行こっか」


 今、俺は何人もの男子から睨まれてるんだろうか。


「なあ、こう言うの勘違いされないか?」


「勘違い?」


「いや、美由ちゃんが気にしないならいいけどさ」


「気にするわけないよ」


「そっか、ならいい」


 どう言う風の吹き回しだろうか。美由は教室でも俺に抱きついてくることがある。その時の男子生徒の凍るような視線と言ったらないぞ。ただの友達なのに、これではクラス公認のカップルみたいじゃないか。


「はい、あーん」


「あーん」


 屋上で美由に食べさせてもらう光景もいつものようになった。てか、俺たちただの友達だよな。こんなことしてて大丈夫か?


 何度か大和に聞いてみたら、異性の友達はみんなやってるよってよ、と言われた。絶対嘘だ。流石の俺にでも分かる。異性の友達同士はご飯の食べさせ合いっこはしない。そもそも、ただの友達なのにペンダントを買わせた奴だからな。全くその言葉に信頼性はない。


「あーあ、まさか天使様がこんな平凡な男の彼女になるとは思わなかったよ」


 イケメンメガネの成澤仁が大きく俺の前でため息をついた。


「だから、彼女じゃねえって……、美由ちゃんに失礼だろ!!」


 ここで勘違いされたら、美由は高校生活を棒に振ることになる。きっちり言ってやったぞ、と俺は美由の方を向いてピースサインを送った。


「はいはい、分かった、分かった……で、いつまでそれ続けるの?」


「何のことだよ?」


「なんでもなーい」


「よく分からないけどな……」


「分からなくていいけどね」


 最近の美由は意味深なことを言ってくる。これが何を意図しているのかは、全くの謎でしかないが、きっと目立ちたくはなかったんだろう。


 まあ、それは当たり前だよな。流石にここまで大勢に友達同士なのがバレたら大変だ。


「で、どこまで行ったの?」


 昼休み、弁当を食べて帰ってきたら、さっそく美由が友達に捕まっていた。


「どこまでって、なんのことだろ?」


「まーた、また清純ぶって……ねえ」


 友達同士目配せしあっては美由に何か聞きたいようだ。


「うーん、ハリウッドスタジオまで行ったよ」


 美由のその言葉に友人が転ける真似をする。それにしても転ける真似とはコントだよな。


「違うでしょ!! どこまでって行ったら、そうじゃなくてね。そこの柏葉とどこまで行ったのかってことよ!!」


 うーん、どこまでって言われてもなあ。


「柏葉は美由とどこまで行ったの?」


 たまりかねて、女友達の一人が俺に聞いてきた。


「うーん、弁当作ってもらうところまでは行ったぞ」


 本当は掃除までしてくれてるが、ここまで言ってしまうときっと美由が困るだろう。


「あんた、ねえ……」


 美由の友達はそれ以上に何か言いたそうだったが、突然他のことを思い出したのか、ニッと笑った。


「そうだ……、みーゆ?」


「何よ、突然変な呼び方して?」


「あなたさ、クリスマス。誰と過ごすの?」


「えっ!? ええええっ、ちょ、ちょっと何聞いてるのよ!」


 美由が慌てて否定した。顔を真っ赤にして俯いてる。


「えーっ、まだ決まってないの?」


「決まって……ないけども……まだ……」


「へえ、てっきり誘われてるのかと思ったわ」


 おいおい、てことは美由を誘いそうな男が周りにいるってことか。


 俺は美由から視線を逸らして他人のふりをした。こう言う時は気づかないふりをしてあげた方がいい。美由だってフリーなんだ。誰か好きな人の一人や二人いてもおかしく無いだろう。


「じゃあ、クリスマス会行けるよね?」


「えっ!? なにそれ?」


「フリーな娘を今探してるのよ。美由が来るって言ったら絶対人が集まるよ!!」


 ちょっと待て。美由の表情からすると、クリスマスは誰かと一緒に過ごしたそうに思えたが……。クリスマス会なんて参加してもいいのか?


「ちなみに、柏葉は参加ね」


「えっ!? なぜ俺?」


「そりゃねえ……そうしないときっと参加しないだろうから……」


「まあ、俺は予定ないけど……」


「えっ、ちょっと幸人……」


「どうしたんだ美由ちゃん?」


 その美由の表情を見て友達は嬉しそな顔をして小さな声で、だよねえ、って呟いた。何がだよねえなんだよ。


「で、柏葉が行くとして、美由はどうする? あっ、予定あるなら来なくてもいいけどな」


「わたしもクリスマス会参加するよ!」


 その声にクラスの男の大半がよっしゃあとガッポーズをした。

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