第63話 お見舞い

 俺の誕生日は警察の対応と美由の看病のおかげでほぼ潰された。


「本当にごめんね。大事を取ってと言うことだけど、誕生日潰してしまって本当にごめん」


 美由はベッドから手を出してきて、俺の手を握った。


「いいんだよ。そんなこと、それよりも俺ここにいていいのか?」


「ここにいて……」


 でもさ、お母さんも来ると言ってるし、友達だってお見舞いに来るだろう。色々と困らないのか。俺が心配していると、担任の先生が飛んできた。


「結城、大丈夫か?」


 美由を見て怪我が浅いことを確認すると、改めて俺を見て怪訝そうな顔をする。


「あれ……、なぜ、柏葉がいるんだ」


「柏葉くんが助けてくれました。わたし、騙されていたんです。柏葉くんの誕生日だって言うから参加したのに……」


「えっ、お前達いつからそんな関係なんだ!?」


「いや、ただの友達ですよ」


「……おいおい、まあ先生は別にお前達の関係をとやかく言わないが、その……問題を起こすなよ」


 どうして俺を見てそれを言う。


「それにペンダントだってプレゼントしてくれたもんね」


 ちょっと待ってくれよ。俺たちただの友達なのに火に油を注ぐようなこと言ってないか。


「いや友達なら、普通にアクセサリーとかプレゼントするって、大和も……」


「おいおい柏葉、本気で言ってるのか? アクセサリーは普通の友達にはプレゼントしないぞ」


「えっ!? そうなんですか?」


「お前、本気で言ってるのかよ」


 それで、大和はお菓子なのかよ。目の前の美由は悪戯そうな笑顔で笑っていた。


「幸人はね。ただの友達じゃないんだよ。大切なお友達だよ」


 大切な……が、どう言うことを指すのかは分からない。ただ、美由に少しばかりの好意を持たれてるのは、流石の俺でも分かる。まあ、とは言うものの恋人ができるまでの予行演習レベルではあるだろうけど……。


「先生は、これから警察に行ってくるから……」


「あいつらは、どうなりますか?」


「さあな、ただ、暴行罪と強制猥褻罪の容疑になってるから、留置所に入れられてるよ。近く正式に警察から連絡入ると思うから、よろしくな」


 先生はそう言って出て行った。入れ替わりに美由の女友達数人が部屋に入って来る。


「美由……良かった。無事で……、ごめんね。まさかあいつらが、そんなことするとは思わなかったよ」


 美由と抱き合う女友達、いい光景だな、と俺が見ていると美由の友達は俺を不審そうに見てきた。


「どうして、柏葉がここにいるの?」


「いいんだよ! 幸人はわたしを助けてくれたんだよ!」


「美由、助けてくれたって、それに幸人ってどう言うこと?」


「こう言うことだよ……」


 美由はアイビーのペンダントをゆっくりと友達に差し出した。


「えっ、これって……アイビーのペンダント。えっ、ええええっ……なに、それ……」


「美由、趣味悪くない? 限りにも天使様で通ってる美由だよ。男なんていくらでもいるよね」


「幸人は一人しかいないよ」


「でもさ、こいつのどこがいいの? 根暗だし、その顔だってイケメンじゃないし……、むしろ……」


「その先言ったたら怒るよ……」


「それにしても美由がねえ」


「どう言うことだ?」


 俺はアイビーのペンダントを差し出した理由も、友達が慌てている理由も分からなかった。


「もしかして、こいつ美由の言った意味分かってない!?」


 美由の友達は俺を不思議な人を見るような表情で見てくる。


「そうだよ!」


「まさか、それはないでしょう! 美由がそんなこと言うことなんてないよね。しかも、送ったのアイビーだよ。アイビー!」


 アイビーに何があるんだろうか。


「きっと、知らないで送ってくれたんだよ……」


 美由が必死になってフォローしてる。


「でも、美由……!! は知ってたよね!! 花言葉!!」


「ちょっと声大きい」


 花言葉ってなんだ? そう言えば俺のもらった誕生日プレゼントの時計もアイビーが散りばめられてたな。


「そういや、これにも目立たないけど、アイビーだっけ……ついてるよな? これはなんかあるのか?」


 美由の友達は俺の時計を見て、美由の後ろから抱きついた。


「こーら!! ここまで来て往生際悪いぞ!! さあさ、どう言うことか教えてもらおうじゃないか?」


「ちょっと美由ちゃんは病気なんだからさ」


「外野、あんたは黙ってなさい」


「だから、ここには幸人もいるからね」


「えと、まだ告白とかされてないわけ?」


「うん、だって気づいてないもん」


「はあ!? それはあまりにも鈍感すぎ……」


 美由の友達は俺を舐めるように見てくる。


「そっか、そっか、なら、このままの方がいいかもね。後でしっかりと聞くからね」


「うん、分かったよ」


 一体どう言うことなのだろうか。何故か、俺を敵意剥き出しで見ていたのに、最後は仕方がないなあと言う顔をしていた。その変化がどうも俺には理解できなかった。


「じゃあ、わたしは退散するとするか」


「えっ、帰っちゃうの?」


「お邪魔でしょ?」


「そう言うことはないと思うけど……」


「いいよいいよ。気にしないで、その代わりLINEで詳細聞くからね」


「……分かった」


「よろしい。まあ、冴えない男だけど、嫌な奴じゃないからいいや。優しそうだし……」


 だから何を言いたいのだか。俺と美由は彼氏彼女の関係じゃないぞ。そもそも釣り合いが取れないじゃないか。


 美由の友達はそれだけ言うと満足したように帰って行った。


「嵐のような人だったよな」


「だねえ……」


「で、さ……アイビーの花言葉って何」


「あーあー、知らないよ、そんなのあったっけ?」


 美由はその言葉を聞くと凄くわざとらしく知らないふりをした。


「まあ、いいけどさ」


 俺は美由との今の距離感が好きだ。確かにいつかは美由が俺から巣立って行くことは間違いない。ただ、それまでの間さ、俺の側にいてくれたらいい。俺はそう思っていた。

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