第62話 最高の瞬間
「幸人ー!! 助けて!!」
「へへへへっ、王子様はお家でお留守番に決まってるだろ!!」
上村の手がわたしの服に手をかけた。ダメだよ! 服を引き裂こうと力を加える。ミシッ、肩のあたりが破れた。
「おっ、可愛い素肌が見えてるぜ!!」
下卑た笑いが部屋に木霊する。これはレイプだ。わたしは上村の顔を睨みつけた。
「おお、怖い怖い!」
わたしのことなんて怖くないとでも言いたいそうで、本当に嬉しそうにしている。最低の男だ。女のわたしでは男には勝てない。もうダメなのだろうか。諦めかけた瞬間、バーンと大きな音が聞こえた。
「おい、誰か友達呼んだのか?」
「呼ぶわけねえだろ!」
「だよなあ……」
えっ、どう言うことなの?
廊下を走る音が聞こえる。もしかして、そんなこと、あるはずはない。幸人は家にいる。来るはずなんてない!!
そして、入口の扉が開け放たれ、いるはずのない人が目の前に立っていた。
「嘘だろ! 柏葉!! お前……なぜ、ここにいるんだよ!!」
「おかしな事を言うよね。呼ばれたからに決まってるだろ!!」
「幸人!! 本当に幸人なの!!」
「美由、待たせたね!!」
「幸人、わたしバカだ。ごめん、本当にごめんね……」
「ふざけるな!! 柏葉!!」
上村が幸人に殴りかかろうとした。少しズレて竹刀を斜めに振る。前に一度見たことあるけど、幸人って凄いよ。上村は何が起こったかもわからずに倒れた。
「何を……しやがる!」
「正当防衛さ……それよりさ、これって犯罪だよね!」
幸人は竹刀を山本に向けた。
「ちょっと待てよ! 俺はそうだ。そこの上村に脅されたに過ぎないんだ!」
「そんなわけないよね! みんなでわたしを犯すつもりだったよね」
「そんな事あるかよ!! なあ柏葉、信じてくれよ!!」
わたしはスマホの再生ボタンを押した。先ほどの声が流れ出す。
「くそっ!! この女!!」
山本が飛びかかるよりも先に幸人の竹刀が速かった。山本も上村の上にのしかかるように倒れ込む。
「後、ひとりいるよね」
「俺は……」
「分かってる! あなたは今回に関しては何もしなかった。だから証言してくれるかな?」
「わ、分かった……」
良かった。これで安心だ。
「幸人……ありがとう……」
わたしは幸人の胸に飛び込んだ。
「怖かった!! 怖かったよぉ!!」
「美由……ちゃん!!」
幸人の声が無茶苦茶動揺している。心臓だって壊れそうなくらいドキドキしてるよね。助けてくれてありがとうくらいと思ってた。本当に鈍感さんなんだからね。
「もう、片付いてるのか」
「大和くん、あなたが連絡してくれたの?」
わたしは幸人の胸から視線を外して大和に声をかけた。
「違うよ。幸人はね、今日の誕生日を美由ちゃんが祝ってくれなくて、不安で不安でたまらなかったんだよ」
「本当!?」
「ちょっと待ってくれよ。そうじゃなくてさ……」
「俺にはそうとしか聞こえなかったけどね。違うのかい?」
大和は悪戯そうな笑顔をした。
「うるせえよ……、そりゃ、少しは期待したけどな」
「何度も美由ちゃんの部屋を往復してたんだよね?」
「そうだよ! 悪いか」
「悪くない! 悪くないよ!!」
ここは声を大にして言いたい。悪くなんてあるはずが、ない!!
目の前の幸人は本当に申し訳無さそうな顔をした。
「美由ちゃん、大変な目にあったからだと思うけど、駄目だよ。こんなことされると俺も男だから勘違いするよ」
「勘違いしてくれていいよ」
わたしがニッコリと笑顔で返すと幸人は本当に驚いた表情で見ていた。
「おいおい、美由ちゃんはあんなことがあった時だから、心細くて俺に抱きついたんだよ」
「心細くて、なんかじゃ絶対ない!!」
本当にどこまで行っても幸人は鈍感さんだ。だから、思わず強く言ってしまうんだよ。
「まあ、その結論はふたりで話あってくれよ。それよりさ、こいつら、どうするよ!」
わたしは倒れた上村と山本。そして、その傍で震えてる沢村を見た。
「とりあえず、警察は呼んでおいたよ。それよりも肩の怪我大丈夫?」
わたしは完全に切れた片口を見た。殴られた顔からも少し血が出ていた。
「本当だ。美由ちゃん、大丈夫か?」
「ごめん、怖くて気にしてなかったけど痛いかも……」
「じゃあ、救急車呼ばないと……」
幸人が慌てて救急車を呼ぶに行こうとして、大和に止められた。
「もうすぐ来るよ。そんなこともあると思ったから呼んでおいたよ」
「おいおいおい、あまりにも用意が良すぎるだろ!」
「面倒な事は俺が片付けておくから、幸人と美由ちゃんは、病院に行ったらいいよ」
「ごめんね」
「ありがとう」
「お安い御用だよ」
――――――――――
(幸人視点)
美由は強い力で引っ張られたのか、肩の筋肉が断絶していたため、少しの間入院することになった。
「ごめんね、誕生会できなくて……」
「それどころじゃないだろ。これから検査と、警察も来るって言ってたしな」
「うん……」
「それとね。美由ちゃんのお母さんが来るらしいよ」
「えっ、本当に!!」
「うん」
「そうか事件になっちゃったもんね。ママ、心配してるだろうな」
「……えと、ママ……」
聞かなくて良いことを聞いてしまった。美由は顔を真っ赤にしてベッドの中隠れた
「パパとママが悪いんだよ! 小さい頃から、ずっと呼んでたから習慣になったんだよ」
「いいと思うけどな」
「えっ!?」
「流石にその呼び名で俺が呼んだら変だけど、美由ちゃんなら凄く相応しく感じる?」
「わたしが子供っぽいって思ってるでしょ!」
「あはははっ」
「もう知らない!」
そんなことないよ。それにしても美由から、衝撃の告白をされたっけ。きっとあんな怖いことになった後だったから動揺して勘違いしてるのだろう。流石に俺と美由がキスをしてる光景は想像できないよ。
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