第61話 望まない誕生会

(美由視点)


 わたしを狙って主宰されたパーティだと気づいてしまった。これはヤバい。なんとかして逃げないと……。あっ、スマホなんてなくても、外に逃げられさえすれば助けを呼ぶことだってできるよね。


「スマホをここに置いていけばいいかな」


「じゃあ、俺が美由ちゃんをトイレにエスコートするよ」


 私が席を立つと渡辺が一緒に席を立った。要するにわたしが逃げ出そうとするのを読んでるのだ。これでは逃げることはできない。女のわたしが逃げたって外に出ることなんて不可能だ。


「どう言うつもりなの? これって監禁だよね?」


「何を言ってるんだ、美由ちゃん。俺たちは柏葉くんの誕生会を開催するために、ここに集まったんじゃないか。本人は予定があったから来れなかったけども、これはれっきとした柏葉くんの誕生会だよ」


「そうそう、俺たち柏葉くんのプレゼントも用意してるしな。美由ちゃんも持ってきたんだろ!」


 わたしのプレゼントはバッグに入れている。こんなところで出すわけがない。


「じゃあ、誕生会を始めようか!」


「柏葉くんの誕生会なら、わたし帰ったっていいよね!」


「ダメだよ!! 俺たちはまだ柏葉くんのこと良く知らないんだ。一番良く知っている美由ちゃんから聞きたいと思ってね」


「だよな! 俺も知りたい!」


「その前にさ、やはり誕生会は盛り上がりに欠けるとダメだから、王様ゲームでもしないか?」


「いいねえ!!」


「はあっ!!」


「やはりせっかくの誕生会だよ。盛り上げないとね」


 誕生会と言うのは体裁だけで、やはり本当のところは、わたしを狙ったものだ。


「ほらほら、トイレに行かないなら座って座って……」


「痛い!」


 上村はわたしを思い切り座らせた。あくまでも誕生会と言い張るらしい。


「さあさ、王様ゲームだ。そうだな、最初は俺から時計回りだな」


 山本がボックスを持ってきて、一枚紙を取った。


「えと、王様が好きな人を指名してキスをする! うおっ、こんなの誰が入れたんだ」


 ちょっと、ふざけないでよ。


「じゃあ……上村かな」


 わたしを指名しようとして来たから、思い切り睨みつけたら、そこを通り過ぎて上村を見た。


「男同士なんて嫌だぞ! そこは女の子とするのが普通だろ!」


「でも、なんか睨まれたぜ」


「じゃあ、ホッペとかでいいんじゃね。最初だからさ」


 最初だからさって、欲望がダダ漏れなんですけども……。


 こんなやつ、頬にだってしたくないよ。


「じゃあ、美由ちゃんいいかな?」


「……いいわけ……ない!!」


「そうか……、そんなに柏葉のことが好きなのかな?」


「あなた達には関係ない!」


「へえ、違う……じゃなくて関係ないなんだ! 否定しないんだね!」


 山本がわたしの顔に自分の顔を近づけてくる。


「別にふたりの関係をどうこう言うつもりはないよ。でもさ、美由ちゃんがここであくまでも嫌がるなら、柏葉との関係をあることないことクラスでぶちまけてもいいけどさ」


 それは、まずいよ。幸人は騒ぎに巻き込まれたくないだろう。クラス中にわたしたちの関係が知れ渡れば、色々と詮索する人も増えて、幸人に迷惑がかかる。


「ねえ……、ここであったことは絶対に柏葉くんには言わないからさ。そうだ……ここで言うことを聞いてくれたら、もう二度と美由ちゃんに付き纏わないと約束するよ」


 山本はそう言ってウインクした。


「ほっぺにキスするだけだよ。王様ゲームのルールだからさ」


「……別に唇にキスするわけじゃないからいいじゃん、なあ!」


 3人とも話を合わせてるのか、そうだそうだとわたしに席を近づけてくる。


「そんな大胆な格好で来たんだ。期待してたんだろ!」


 この服は幸人のために選んだ服だ。外出用の服にしてはスカート丈も膝上5センチだし、胸も少し強調して見えるかもと思ったけど、幸人の照れた表情を見られるなら、いいかと思ったのだ。


「ほら、生パンじゃねえか」


 上村がわたしのスカートを引き上げた。ちょっと、何してくれてるの。


「やめて……!!」


「やめてだってよ。もしかして、柏葉になら見せても良いと思ってたりする?」


「そんなこと、あなた達には関係ない!!」


「おっと、やはり否定しないじゃん」


「それじゃあ、なおさら帰せねえよな!!」


「変なことしたら、わたし警察に行くよ!」


「その時にはなあ……」


 下卑た笑い声がこだまする。要するに写真を撮って脅そうと言う魂胆なんだ。そんなことされたら、何も言えない。


「幸人,ごめん!」


「幸人だと!!」


 この言葉が上村の怒りに火をつけたらしい。


「もう、やっちまったのかよ!」


「幸人がそんなことするわけないでしょ!!」


「そうか、そうか。まだ処女か」


「やめて……」


「いやあ、今辞めたら俺たちもヤバいもんなあ。やはり、ひん剥いて裸の撮影くらいしないとな」


「いや、やっちゃった方がいいよ。なにが幸人だよ。あいつのどこがいいんだよ!」


「あなた達に幸人のよさなんて分からないし、分かって欲しくもない」


「ふざけるなよ!」


 上村がわたしの顔を殴った。口から血が出てくる。やだ、もう……お父さんにだって殴られたことなんてないのに……。


「渡、ヤバいって……暴力は跡が残るだろ」


「だってよ、こいつ幸人、って……」


「やっちまえば、恥ずかしくてもう奴の前になんか出れねえよ」


「確かにそれは言えてる! なんせ、天使様だもんな」


 山本が後ろから抱きつき、わたしの胸を思い切り掴んだ。


「痛い!!」


「言うこと聞けば、気持ちよくしてやるからさ……」


 わたしの耳に息を吹きかけて、小声でそう言う。本当に最低……。もう嫌だよ……。

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