第60話 助けたい!
「美由……ちゃん、いるか……な?」
美由の部屋には何度も行ったが、インターフォンを押すべきか悩んで、部屋の前まで戻ってくる。その繰り返しだ。それにしても、おかしいよな。俺が知る限り、最近の娘にしては珍しく美由は義理堅い娘だ。
もし、最悪友達じゃなくなっても、最後だからね、と言ってでも誕生会をしてくれそうだった。やはり、どう考えてもおかしい。そう言えば山本が美由に声をかけていたよな。
確かに美由が俺の誕生日を忘れてしまった可能性はある。でも、知り合いでもない奴にクリスマス会に誘われて、ほいほいと行くだろうか?
もしかしたら、女友達が行きたがった可能性はある。俺はなんとか胸騒ぎを抑えようとした。それでも俺には連絡してくるはずだ。何故か美由が外出する時は、必ず予定を言って外出していた。
部屋にいるなら、それでいい。頼む! 無事でいてくれ。俺はもう一度部屋に戻り、心を決してインターフォンを押した。
部屋は物音もしないで静まり返っている。何度かノックをしてみたが、やはり返事がない。
俺の胸騒ぎは確信に変わろうとしていた。大和なら何か知ってるかも知れない。
俺は大和に電話をかけた。
「おっ、珍しいな。どうした?」
「大和、美由ちゃんがどこに行ったか知らないか?」
「えっ!? お前と一緒に誕生会してるんじゃないのか?」
「なに、それ?」
「あっ、これサプライズだからって言ってなかったけど、美由ちゃん、幸人をみんなで祝うんだって嬉しそうにしてたよ」
「そんな話聞いてないよ!!」
その瞬間、クリスマス会という言葉が頭に過った。山本か……、という事は俺には断られるようにクリスマス会の誘いを入れて、それを見ている美由に誕生会と誘う。そんな計画だったのか。
俺がぼっちなのを気にしてる美由は俺の誕生日をみんなで祝おうと了承する。これは、やばすぎる。
「なあ! その誕生会ってどこでやってる?」
「えっ、お前の家じゃないのか?」
「美由はきっと山本に騙されて、俺の参加しないクリスマス会に参加させられてる」
「なるほど、そう言うことか。それはヤバいな。友人関係全員当たるから待ってろ!」
頼むべきは、かけがえのない友達だ。その時限りの友達なんかいらない。美由、俺は友達は、たくさんいらないんだよ。美由と大和がいてくれれば、それで充分だ。
俺は剣道の竹刀を手に取った。何かあった時に素手では勝てない。ただ、竹刀を持った俺に勝てる奴なんてクラスにはいない。
「友達が知っていた! 府内のレンタルスペースだ!!」
流石にこういう時の大和は早い! 後のことなんて知るか! 俺は竹刀を持ってレンタルスペースに向かった。
「ここか……」
遮音性の高いタイプのレンタルスペースで店員も常駐していない。店員が常駐するタイプでもない。恐らく出前を取ったんだろう。なら、美由の今の状況はかなりヤバいことになる。
「おっ、イケメンのご登場だね」
腕を組んでニッコリと微笑む大和。きっと俺が心配になって来てくれたのだろう。
「鍵なら開けておいた」
レンタルスペースにはポストに良くある四桁のシリンダータイプの鍵がついていた。
「良く番号分かったな?」
「はははっ、分からなくても開けられる裏技があるんだよ」
「まじか……」
「このタイプなら余裕だよ」
「すげえな。本当にありがとう……」
「礼には及ばんよ。それよりさ、ほら天使様を助けに行かないと……」
「ああ……」
大和は竹刀を持った俺の強さを知っているから、何も言わずに扉を開けてくれた。
美由、待っていてくれよ!! 俺は覚悟を決めて会場に乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます