第58話 お誕生会?

「今日はありがとう。ここまで話が出来れば後は作れるよ」


 ハリウッドスタジオの帰り道、大和からそう切り出された。


「えっ、大丈夫? わたしは、まだまだ行けるけど……」


「最初はラスト付近までお願いするつもりだったけども、流石にまだその段階ではないと思ってね」


「まだ、その段階?」


「ちょちょちょ、いいの。いいの、幸人は考えなくて!!」


 俺は訳が分からなかった。何でも役柄は成り切らないとならないそうだ。プロのタレントでも演技をする時は相手役を恋人と思って演技をするそうだ。


 素人の俺たちにそこまではさせられないと言うことだな。


「まあ、ドラマと違って、創作は頭の中で考えるものだからね。大丈夫だよ!」


「えーーっ、別にわたしはいいんだけどね」


 美由は俺をチラッと見た。大和はそう言ったが美由は少し不満そうだ。


「今回に関しては、幸人くんがどこまで美由さんとの距離を感じてるかだからね。俺が思うには、もう少し時間がかかりそうだ」


 大和が何を言ってるのか分からないが、要するに俺の演技力の問題なのだろう。


「まあ、困ったら頼むかもね」


「うん、分かったよ!」


 そう言って俺たちは別れた。雨降って地固まるか。美由との距離は少し近づいたような気がした。




――――――――





「なあ、クリスマスパーティーがあるんだが、行かねえか?」


 12月になってすぐに、俺は話したことがなかった山本佑樹達グループから突然、誘われた。


「へっ!?」


 なぜ、ボッチの俺が誘われてるんだ、と思って周りをぐるっと見渡した。


 山本佑樹の仲間の沢村瑠衣が美由に声をかけていた。なぜ、手洗いに行く廊下を出た時に声をかけてるのかね。


「クリスマスパーティーって、いつやるんだ?」


 断る気なのだが、日にちを聞かないと理由をつけることができない。


「12月12日だけだよ」


 俺の誕生日じゃないか。まあ、祝ってもらう予定はないが、仲も良くない奴らのパーティに参加したくはない。


「ごめんな。その日、家族で誕生日パーティーするんだよ」


 家族は地方だが、言わなければ分からないよな。


「そうか、それは残念だな」


 ちっとも残念そうでない声でそう言った。と言うか断ったのを聞いてホッとしたような気がしなくもないが……。


「じゃあ、そう言うことで……」


 美由の方も話が終わったようだ。流石に誕生日祝ってくれるよな。確認したくなるが、流石に言うわけにはいかない。


 美由とは今でも教室では他人同士のフリをしているが、大和の一件であのふたり何かあるのかなどと一時期は騒ぎになっていた。


 何度も聞かれたよな。その度になんの関係もない、大和の漫画に付き合っているだけと言うのに疲れたが……。


 そう言えば、美由が最近になって、また告白されることが増えたとか言ってたな。噂話が出るたびに、パタっと告白がなくなり、また再開する。もう、美由への告白はこの学校の年中行事のようになっていた。


 美由は山本達グループから何を言われたのだろう。俺は聞いてみたかったが、流石に美由のプライベートな部分を聞くほどに仲が良いわけでもないから、躊躇していた。美由も何か言いたそうに見えたが、どうしたかと言うとなんでもないよ、と慌てて否定する。


 本当になんなんだろうな。


 そうしているうちに12月12日がやってきた。この日、休みだったので美由がお祝いに来てくれるのを期待したが、そんな事もなく、昼過ぎになってしまった。


 期待してたんだよな。俺は美由の部屋を何度も見に行ったが、部屋の中は静まり返ってるように思えた。


 もしかして留守なのか……。


 別に約束してるわけじゃないから、インターフォンを鳴らすわけにも行かない。それにしても水くさいな。確かにただの友達だけどさ、俺たち……。





――――――――


(美由視点)


 そろそろ幸人の誕生日か。今年の誕生日はサプライズにしようと計画していた。


 出来れば幸人もたくさん友達できたら、いいのにな。幸人のいいところを自分しか知らないことが堪らなく嫌になることがある。


 隣に座る幸人を見ると心臓が潰れそうにドキドキする。幸人は本当に鈍感で、わたしの好きに全く気づかないようだ。


 結構、大胆な格好でアプローチした事もある。そしたら、そんなにスカート短いと寒いだろ、だって……。


 それにさ、それで街歩いたら、見えるだろ、だって言うんだよ。


 こんな恥ずかしい格好で街なんて歩けないよ! と言いたくなったけども、そんな鈍感さんなところも大好きなので、それでいいかと思った。


「ねえ、ちょっといいかな?」


 また、新手の告白だろうか。正直、幸人以外の告白なんて受け入れるわけがないのだが、天使様で通ってるだけに、邪険に扱うわけにも行かない。


「なんですか?」


 少し冷たかったかな。沢村は少し驚いたようだった。


「あのさ、12月12日空いてない?」


「空いてません」


 日にちを聞くより先に空いてませんと言ったが、その日は幸人の誕生日だ。その日が空いてるとかあり得ない。


「いやさ、柏葉幸人くんの誕生日をしたくてね」


「はいっ?」


 きっとわたしの顔は凄く驚いてただろうな。まさか、チャラ系の沢村たちから幸人の名前が出るなんて思ってなかった。


「本人にはクリスマスパーティーと言ってサプライズしようと思ってさ。結城さんも行かないかな」


 前から幸人はたくさんの人と仲良くなって欲しかった。もっと、幸人のいいところをたくさんの人と共有したかった。もちろん、それで取られたら堪らないが……。


「それって……」


「サプライズだから、当日参加するまでは秘密にしておいて欲しい」


「……なら、行くよ」


 わたしはそう二つ返事で返答をした。クラスのみんなでお祝いする幸人の誕生日。そんなサプライズイベントがあるなら、参加しないわけがない。

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