第55話 誕生会

「ねっ、ペンダントつけてくれるかな?」


「自分でつけれないものなのか?」


「そんなことはないけども、初めては幸人につけて欲しい!」


 初めてと言う言葉に俺はいやらしさを感じた。馬鹿か、俺は美由の純粋な心を汚れた心で踏みにじる気かよ。


「わっ、分かったよ」


 俺はペンダントを手に取り、美由の首に手を回す。


「なあ……」


「どうしたの?」


「誕生日プレゼントにペンダントって、重くないか?」


「大丈夫だよ。ペンダントなんて、普通だよ」


「そうか……、良かったよ。大和、アクセサリーショップに連れて行くだろ。で、自分はクッキーとかないよな」


「大和くんは、友達だけど話すようになったの最近でしょう。きっと気を使ってるんだよ。それに、このクッキー、美味しいよ」


「あっ、ああ……」


 俺は目の前のクッキーを一口食べて、コーヒーで流し込んだ。


「そんな食べ方じゃ、味わからないよ」


「まあ、でも美味しいのはわかるよ」


「明日、ハリウッド楽しもうね」


「あっ、ああ。俺のわがままで1日伸びたもんな」


「そうだよ。一人でわたしのこと勝手に考えて、友達やめようとするんだもの」


「ごめん……」


「……いいよ。幸人が誤解解いてくれたなら、それでいい」


「それでさ、ペンダント見て、驚いてなかったか? なんか変なもの買ったんじゃないかと、今もドキドキしてるんだけども……」


 美由はそれを聞いて俺の側に近づいた。俺の目をじっと見ている。


「鈍感さんだね」


「なにがだよ」


「なんでもない」


「なんでもないって顔してないだろ」


「……なんでもないって顔だよ」


「なぜ、そこ、間が空くんだ」


「さあね、なぜでしょうかね」


「で、なにが鈍感なんだよ」


「それはいいんだよ。その方がわたしにはいいかな。今はゆっくりでいいからさ」


「意味、わかんねえよ」


「わからなくていいんだよ。違うか。分からない方が幸人らしくっていいよ」


 俺は納得できない気持ちでいっぱいだった。美由も大和も何か隠してる気がするんだよな。


「でね、このペンダント似合うかな」


 美由は俺に向き直り、ペンダントを手に取った。


「ああ、とっても似合ってるぞ」


 お世辞じゃなくて、そのペンダントは自然とそこにあるべきだと感じた。


「こうして目の前で膝突き合わせてると新婚夫婦みたいだね」


「ちょ、ちょっと、そんなこと冗談でも言うべきじゃないよ」


「言ったらどうなるの?」


「いや、そりゃさ俺も男だし……、美由ちゃんは……その女の子だし……」


「生物学的にだねぇ」


「いや、そう言う意味の女の子じゃないし……」


「てことは、少しはドキドキしてるんだね」


 どうなってるんだよ。俺の心臓は張り裂けそうにドキドキしていて、いつ気づかれるかとハラハラしている。


「結構、ドキドキしてるよ? 心臓……」


「ちょ、ま……」


「ちょ、ま?」


「いや、美由ちゃん、いきなり胸に耳をつけるの反則だよ」


「どのくらいドキドキしてるのか気になったんだよ」


「で、どのくらい?」


「想像よりは、少し上かな?」


「なんだよ、それ」


「まあ、そこは想像におまかせします」


 美由が新婚初夜なんて言うからだ。食事を作りに来てくれるようになってから、美由と一緒に夕食を食べることは当たり前になったが、ここまで近づかれたことは少ない。


「じゃあ、ご飯作ろうかな」


「今日は外食しないか?」


「だめだよ。明日だって外食するんだよ。ハリウッド行くんだからさ」


 そう言って冷蔵庫を開けた。


「これは……ケーキ?」


 驚いた表情でケーキを取り出した。


「どうしてケーキがあるのかな?」


「なにがだよ」


「結局、祝ってくれるつもりだったんじゃない?」


「こう言う展開も無くはないから……さ」


「じゃあ、わたしの16歳の誕生日。一緒にお祝いしようよね」


「……そうだな」


 なんか美由の誕生日を無茶苦茶にしてしまった気がしていたが、本人は凄く嬉しそうだった。ケーキ買っておいて良かった。


 本当のところ、美由の部屋に届けようと思っていた。あんなこと言いながら期待してたんだよな。つい言ってしまった言葉で行けなくなりそうだったが……。終わりよければ全て良しか。


 それにしてもペンダントの謎だけが残った。美由はそのペンダントを見た時、一瞬かなり驚いた表情を見せた。その表情は笑顔に変わったから良かったが。何故、驚いたんだろうか。





――――――――





「ほら、幸人、ロウソク」


 美由は俺からろうそくを受け取ると綺麗に16本並べて火をつけた。


「おばあちゃんになったら、ここに80本とか並べるのかなあ」


「なんかさ、十年分のろうそくがあるんだって」


「へえ、幸人よく知ってるね」


「うちのおばあちゃんのお祝いによく出てくるからな」


「そうなんだ。ふたりとも今でも健在なの?」


「そうだよ。いつもうるさいけどな」


「あはははは」


 美由は笑いながら俺を見た。


「幸人はその年になっても、こうしてお祝いしてくれるのかな?」


「えっ!?」


 俺は思わず美由を見てしまった。


「それは、……お前が結婚しなかったらの話だろ! 俺は別として、その前提はあり得なくないか?」


「うーん、どうなんでしょうかねえ」


 美由は笑顔で俺をみる。


「他の選択肢もあると思うけどなあ」


「ねえよ!」


「そうかなあ!?」


 その他の選択肢が何を指すのか。俺だってわからないわけじゃない。きっと美由はからかってるだけだ。そんな選択肢があっても、選択されるわけがないじゃないか。

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