第49話 誕生日プレゼント!?
「さあ、気を取り直して撮影再開するよ!」
撮影と言っても漫画に起こすための写真だから、何枚も撮る必要はない。俺たちはあくまで今までのシーンをなぞるだけで、特別変わったことをすることもなかった。
「なあ……これ、そのまま使うのか?」
「いや、あくまでインスピレーションだよ。脚色はしていくつもりだよ」
弁当を作ってもらうシーンや母親が来るシーン(実際に呼ぶわけではないが)など、思い返すと恥ずかしくなる思い出も結構ある。
「美由ちゃんは、大丈夫なの?」
「わたしは……平気だよ!」
目の前の美由は嬉しそうに頷く。こんな物語が世の中に出たら、撮影していたことを知ってるクラスの連中には、俺たちは登場人物と同じく恋仲になると勘違いされるだろ。
「なあ、この話ってラストはどうなるんだ?」
「どうなるんだろうね?」
質問に質問で返さないでくれよ。ただでさえ今の状況に当惑してるんだからさ。
――――――――
撮影は順調に進んでいく。もちろん、美由はクラブ活動があるので毎日参加することはできない。結局、剣道部には入らなかった俺は美由の来ない時はふたりで撮影することになった。
「じゃあ、次はハリウッドスタジオのシーンだよね」
「行くとか言わないよな?」
「俺も行ったことがないんだよ。そんなこと言わないで行こうよ」
正直、前回は全額姉さんの奢りだったので、お金がないわけではない。
「奢ってくれるのか?」
「漫画家になったら返すよ」
「出世払いかよ。まあいいや。で、いつにするんだ?」
「もちろん、十月十五日だよ」
「なぜ!?」
なぜ一週目土日じゃなくて、二週目に持ってくるだよ。
「だからさ、プレゼント買いに行こうよ」
「誰のプレゼントだよ!」
「おいおいおい、結城さんの誕生日を知らないなんて言わないよな?」
「はあ? もしかして美由ちゃんは……」
「そうだよ。十月十五日生まれだ」
「なぜ、お前そんなに詳しいんだよ!」
「設定を作るためには、まず誕生日から調べるだろ。柏葉幸人、誕生日は十二月十二日。血液型はA型だ」
「すごいな」
「何も凄くないよ。天使様の誕生日なんて男子生徒の大半は知ってるよ」
「本当か?」
「当たり前だろ。自分の好きな娘の誕生日を知らないなんて、あり得ないぜ」
やはり、こいつは美由とお似合いじゃないか。俺なんか誕生日も血液型も、趣味すらも知らない。
「結城美由ちゃん、誕生日は十月十五日。血液型はO型。今は猫のキャラデコにハマってる」
「凄いよ、お前……」
「幸人は近くにいすぎて、本当に大切なものが分かってないんだよ」
大和はそう言って俺の肩を叩き、ニッコリと笑った。本当に爽やかすぎるぜ。こんな表情されたら、美由もイチコロだろう。
「俺は君のキューピッドだ」
「なんだ、それ?」
「なんでも、ないさ」
本当に心までイケメンっているんだな。俺は大和と一月あまり一緒にいて、本当にそう思った。たまに美由と二人で仲良く話してるところを見ると本当にお似合いのカップルだ、と思う。
「じゃあ、買いに行くぜ!」
「大和も買うんだろ。その、……美由ちゃんの誕生日プレゼント……」
「まあ、適当にね。それより、俺は君のプレゼントのアドバイスしてあげたいね」
「なんだ、それ」
「はははっ、気にするなよ」
俺は大和と連れ立って近くのモールにやって来た。平日だと言うのに若い女性がやけに多い。買う予定もないのに、物色する女性の気持ちはわからんな。
「美由ちゃんはどのプレゼントがいいかな? やはり、クッキーとかが無難かな?」
「何、言ってるのさ」
大和は大きくため息をついた。
「ほら、アクセサリーショップに行くよ」
大和は俺の腕を掴み、アクセサリーショップに向かって歩き出す。
「ちょ、ちょっと、ただの友達なのに重すぎないか?」
「重すぎないよ」
「……料理道具とかさ、美由ちゃんが喜びそうなものを……」
「それで、もっと料理を上手く作れよ、とでも言うのか。君って本当に女の子の気持ちがわからないよね」
「いや、具体例が悪かったな……例えばテニスのラケットでもいいんだけどさ」
「いいんだよ、幸人はアクセサリーショップでさ」
「だから、重いって……」
「重くない!」
「なんでだよ」
「いいから、俺の言った通りにしとけって」
まあ、女性のことならば、俺よりもはるかに大和の方が詳しいだろう。
「なら、頼むわ」
「選ぶのは幸人だからな」
いつの頃からだろうか。大和は俺のことを幸人と下の名前で呼ぶようになった。俺も大和と呼んでいる。
店内に入ると女性店員が笑顔で俺に近づいてきた。
「友達のプレゼントですが、何を買ったらいいか分からなくて……」
「プレゼントですか? なら……こちらがプレゼントに最適かと思います」
店員はペンダントのコーナーに案内した。確かに指輪はおかしいし、美由はイヤリングをつけない。ペンダントがいいだろう。
俺はその中から値段も手頃な花柄のペンダントを手に取った。
「これ、どうかな?」
「えと、こちらはアイビーを模ったペンダントでございまして、……あのですね。アイビーの花言葉ですが……」
「あっ、ちょっと待って。その後は言わなくていいよ。うん、とてもいい。これにしよう」
大和が慌てて店員の言葉を制して、それを手に取った。
「幸人、君にしてはセンスがいい。きっと結城さんも喜ぶよ!」
俺はなぜ大和が店員の言葉を制したのか、そしてなぜ、センスがいいと言ったのか、その時の俺には知る由もなかった。
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