第48話 撮影会

「ほら、撮影するよ!」


「だ、大丈夫かな、人来るかもしれないし……」


「確かに、人が来たら、ヤバいよな……」


「気にするなよ……、俺の漫画に付き合ってもらってると言えばいい」


 俺たちは教室でのワンシーンの撮影をしていた。大和はそれを元に漫画に起こしていくそうだ。


「でも、大和だって、せっかく人気あるのに、漫画化志望なんて言ったら、ダメなんじゃないか?」


「笑いたければ笑えばいいよ」


 大和は強いな、と思う。俺たちが他人のふりをしてるのと大違いだ。


「ほら、教室のワンシーンだろ! 柏葉くんはそこで眠ってるふりをして……、結城さんは隣に座る」


 それにしても台詞のひとつひとつが絵になるな。


 俺はチラッと美由を見る。どうして、美由はこんな性格も含めてイケメンな大和を選ばないのだろうか。


「ほら、幸人こっち見ないの?」


 えっ、バレてたの!? て言うことはいつもバレてたのか??


「あのさ、もしかして俺がたまに美由ちゃんを見てること……」


「気づいてるよ!」


 本当に嬉しそうに美由はニッコリと笑った。


「嘘だろ……」


「本当だよ!」


 そう言えば美由は俺とよく目が合う。確かにそう思っていたが、そうか俺の視線に気づいていたのか……。


「ほら、結城さん。ちゃんとしてくれよ。話してたらおかしいよね!」


「分かってよ! 幸人もね」


「あっ、ああ……」


 このシーンは俺と美由と初めての出会いのシーンだ。俺は目を瞑った。


 美由はゆっくりと俺を揺さぶる。懐かしいな、この時はこんなに仲良くなるとは思ってもいなかった。


「はい、カット……」


「これで、いいの!?」


「うん、この撮影で映画作るってわけじゃないからね。ネーム関係はこちらで考えるから大丈夫だよ」


「それにしても、誰も来なくて、良かったな」


「いや、ちょっと残念だよ」


「えええっ!?」


「俺の晴れ舞台のワンシーンだからね。誰か見てくれてる人がいてもよかった」


 いやいやいやいや、そんなことないだろう。こんなことしてるって知ったら、きっと大騒ぎになるよ。


「少しは騒ぎになった方がいいかもしれないよ」


「えええっ!」


 いつも驚くことを言う。


「じゃあ、次のシーンに行くよ……」


「あっ、ああ」


「あのさ、美由ちゃんはいいの!?」


「何が?」


「いや、漫画の主人公のモデルと言っても、この話はラブコメなわけだしさ……、そのハッピーエンドなわけでしょ」


 その言葉に美由は顔を赤らめる。


「悲恋ものは嫌いだから、明るい話が好きだな」


「いや、そう言う意味じゃなくてさ」


 俺は次のシーンの撮影のために、正門前に移動した。


「あれ、大和……」


「本当だよ、どうしたの……大和と……結城さんと……」


 ちょうど帰宅時間だから、クラスメイトに出会うのは当然だ。


「ああ、結城さんと柏葉くんには俺の漫画のモデルをしてもらってるんだよ」


 いつものように屈託のない笑顔。


「えっ、嘘……大和……漫画なんか描いてるの?」


「見せようか、これが設定資料だよ」


「うっま……おいおい、これ、上手すぎだろ!」


「本当だ、大和くんってこんな才能あったのね」


「すげえええ、マジですげえよ。プロレベルじゃねえかよ」


「まあ、そんなもんだ……」


 そうか。あのレベルまで達してしまえば、もうアニオタのようには思われない。そのレベルを遥かに超えてしまってるんだな。


「でもよ、このふたりってさ……もしかして天使様と……」


「幸人だよ!」


 そう言って美由はニッコリと微笑んだ。


「嘘……お前達、いつの間に付き合ってたの?」


「違う違う違う……!!」


 俺はびっくりして慌てて否定する。その横で美由はニコニコと笑ってるだけだった。


「おいおいおいおい、こんなの周りに知れたら大騒ぎになるって、結城さんもちゃんと否定しないとさ!」


「結城さん!?」


「えっ……」


「幸人、違うよね」


「だから、そんなこと言ってる場合じゃ……」


「美由でしょ」


「いや、そうでなくてさ」


「美由か美由ちゃんしか受けつけませーん」


 美由はそう言って本当に嬉しそうにはにかんだ。


「えと、マジで付き合ってるの?」


「だから、違うって……なあ!」


 俺は目の前の美由に同意を求めようとした。


「うーん、友達以上恋人未満……かな?」


 おいおいおいおい、何言ってるんだよ。佐伯雪と川端竜也は明らかに驚いているぞ。このふたりはおしゃべり好きなはず。こんな話が周りに広がったら……、絶対にまずいよ。


「違うよね、俺たち大和くんの漫画のモデルをしてるだけで、実際は友達でも……」


「友達だよね?」


「えっ!?」


「幸人にとって、わたしは友達じゃないの?」


 美由は俺を真剣な目で見てくる。この目には逆らえない。


「友達……だけどさ」

 

 俺は小さく頷いた。


「おい、どう言うことだよ! 知らねえ仲じゃなかったのかよ!」


 気がつくとそこに渡もいた。うっわ、本当に最悪なタイミングだな。渡は、俺の胸ぐらを掴もうとしてきたので、俺はすんでのところで避けた。


「おい、避けてるんじゃねえよ!」


 もう一度、掴み掛かろうとするのを大和に捕まえられる。


「撮影の邪魔なんだよ、消えてくれないかな?」


「はあ!? 何を言ってるんだよ!」


「俺を怒らせる前に消えた方がいいぜ! お前は雑魚なんだからさ」


「はあっ!?」


「脅せば自分の思うような答えをくれる幸人に声をかけて、美由ちゃんに話を聞こうとしない。そっちに聞いた方が早いのにさ」


「うるせえよ、覚えてろよ!」


 渡はそう言うと逃げるように去って行った。


「さあ、撮影の続きをしようよ」


「えと、大和。表情怖くないか?」


「俺の邪魔をするからだよ」


「そうか……」


 俺は大和を敵に回したらやばいと思った。

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