第47話 告白!?

 少し時間を潰して教室に戻って来ると美由と大和が連れだって教室に入っていくのが見えた。ふたり仲良く話しをしている。そうか、あいつ本当に告白したのか。


 それにしても、二人とも本当に綺麗でまるで神話に出てくるようなカップルだ。


「分かったよ。なら、金曜日だな」


「うん、学校終わってからね」


「ああっ、そうだな」


 美由は少しは俺のことを考えて答えを先延ばしにすると思ったが……。まあ、大和なら仕方ないか。


 俺は自席に座って教室から外を見た。俺の心とは裏腹に雲ひとつない青空が広がっている。隣の美由が俺を何度かチラ見してくるが気にしないふりをする。


 気にしないでいいんだよ。美由がしたいようにしたらいい。俺は心の中で何度もその台詞を唱えた。


 それにしても美由の男性恐怖症は大丈夫なのだろうか。これだけは大和にも言っておかないといけない。


 それから数日、いつもと変わらない日々が過ぎて行った。美由は毎日、料理を作りに来てくれたし、俺も普段通りそれを受け入れていた。


 大和のことは大いに気になったが、俺から話すのも変だと思ったから、何も言わなかった。そして、とうとう金曜日がやってきた。




――――――






「起立、礼、ありがとうございました」


 ホームルームが終わると大和の周りに取り巻きの女の子たちが近づいてくる。


「ごめん、今日は先客があるからね」


「ええっ、なぜぇ」


 大和はその声をやんわりと制して美由の前を通り過ぎ、俺の前に立った。


「じゃあ、行こうよ」


「はあっ!?」


 大和が俺に声をかけたのを見て数人の男女が驚いている。


「えっと、……もしかして、何も聞いてない?」


「誰に!?」


 大和は俺から目を離し美由の方に目を向けた。


「放課後のこと言ってなかったの?」


「ごめん。言い出せなかった……」


 美由が小声で大和に言う。


「もう、困るんだけどもなあ」


 大和が本当に困った表情で俺を見る。どう言うことなんだ、俺は頭の中を整理しようとしていると美由が立ち上がった。


「ごめんね、じゃあ、先行くからね」


「うん、その方がいいよ。流石にね」


「分かった」


 そうか、大和は付き合う前に友達の俺に話を通すのが筋だと考えたのだろう。本当に几帳面なやつだな。


「事情はわかったから、どこに行くんだ?」


「えっ!? 分かったの。本当に?」


「行くんだろ」


「あっ、ああ……」


 俺は席を立ち大和と一緒に教室を出た。


「なんなんだよ、何があったんだ?」


 その後すぐに教室は騒ぎに包まれた。まあ、俺と美由の関係を知らなければ当たり前の反応だろう。


「近くのファミレスでいいかな?」


「うん、そこでいいよ」


 そうだ。俺は美由を応援してやると決めたんだ。大和のことは四月から見てるけど、いい奴だと思う。美由をやるならこう言う爽やかな奴じゃないとダメだろう。


 二人はお似合いのカップルだ。胸の痛みは日ごとに強くなるが、俺と美由はあり得ない。ここで泣き言のひとつでも言おうものなら、それこそ負け犬の遠吠えだ。それほど惨めなものはないだろう。


「あれ、結城さんは?」


「えっ、あっそうか。結城さんはクラブがあるから来れないよ」


「そうなんだ……、まあ、本人から言いにくいこともあるよな」


「うん。そうだね。で、単刀直入に聞くけど、君は結城さんのことをどう思う?」


「はあ!? なんのことだ?」


 俺は大和の真意が分からなくて、じっと見た。


「そりゃ、まあ友達かな」


「そうか……」


「やはり、君は面白いよ」


 大和は腹を抱えて笑っている。わけがわからないよ。一体今の何が面白いんだよ。


「はあ!?」


「ごめん、なんでもないよ」


「何がおかしいんだよ。まあいいや。えと、結城さんに告白したんだよな?」


「うん? したよ」


 大和はまるで当たり前のように言い放つ。なんだよ、それ。


「付き合ったと言う報告なんだろ。なら、そうはっきり言えよ」


「違うけどさ……」


 大和は驚いた顔で俺を見る。どう言うことなんだ。


「いや、だってさ。結城さんと今日の話しをしてたよな」


「そうか。それで付き合ってると思ったんだ」


 目の前の大和は腕を組んで、うんうんと頷いた。


「告白はしたけど、する前から結果は分かっていたんだよ」


「そりゃ、大和ほどのイケメンなら結果は見えてるよな」


「あのさ……、本気でそう思ってるのか?」


 俺の言葉を聞いて、大和は明らかに苛立っていた。


「本当に君は面白いやつだ。結論から言うけど、見事に振られたよ。もちろん告白前から分かってたけどね」


「なぜ!?」


「近くに弟みたいに頼りない人がいるから、今はその人のことで手一杯だから恋愛なんて考えられないってさ」


「それって……」


「もちろん、君のことだよ」


「じゃあ、俺が美由の足を引っ張ってると言うことなのか?」


「そう思うなら、思えばいいよ」


「なんだよ、それ」


「否定して欲しかったんだろ。否定するのは腹立つからやめとく。本当のことを教えてあげようと思ったけんだけどさ。むしろ、知らない方が面白いかな」


「なんだよ、それ」


「それよかさ、君と結城さんを主人公にした漫画を書かせてくれないか。実は俺漫画家を目指してるんだよ!」


「えっ?」


 大和はそう言うと鞄から資料集を出した。


「これが君と結城さんだ。もちろん名前は変えてるけどね」


 そこには美由に似た女の子と俺に似た特徴のない男が描かれていた。


「無茶苦茶、うまいじゃないか!」


 こいつこんなに絵が美味かったのか。


「実は何度か出版社に持ち込みをしてるんだけどね。絵は上手いけど、ネームがイマイチと蹴られてるんだ」


「でもさ、俺が良くても結城さんがどう言うか?」


「わたしは、大丈夫だよ」


「美由ちゃん!」


「あれ、結城さんはクラブに行ってたんじゃ?」


「幸人なら嫌がるか、と思って説得しに来たんだよ!」


「なぜ!?」


「性格的にこう言う目立つの好きじゃないかなって。うん、嫌じゃなければ、いいんだよ!」

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