第46話 屋上にて

 俺は昼休みになると屋上に向かった。ここはクラスメイトもいなく落ち着くスポットだ。今日は何度も同じことを聞かれて、嫌になった。


 俺は気持ちを切り変えようと今日の弁当はどんなものかと弁当箱を開けて、慌てて閉じた。


「なぜ、こんな手の込んだ弁当ばかり作るんだよ」


 ステーキ弁当の調理方法を川上先輩のところで聞いていたのは知っていたけども、こんな凝った弁当を作る必要はない。


「隣、座っていいかな?」


「えっ、えと……」


「心配しないでいいよ。だいたいの状況はわかってるつもりだよ」


 目の前にはクラス1イケメンの長谷川大和が立っていた。右手には購買で買ったのか惣菜パンを持っている。


「あっ、ああ……」


「今日は気持ちいい風が吹いてるよな」


「そうですね」


「さっきは災難だったね」


「いえ、別に……」


「気にしないでいいよ。あんな奴はね」


 大和は俺の方を向いて、弁当をチラッと見た。


「えと、いつも母さんが作ってくれてるんだけど、今回は本当に力を入れすぎてしまって……ね」


 俺は食べないわけにもいかなくて、ゆっくりと開けた。ステーキが綺麗に盛り付けられ、うさぎ型に切られたリンゴなどと共に入っている。


「そっか君のお母さんはとても料理好きみたいだ」


「そうなんだよ!」


 俺はステーキ弁当を一口食べた。これは確かにかなり美味しい。川上先輩のシェフが作ったステーキも美味しかったが、これはかなりそれに迫っていた。


「彼らは結城さんに聞く勇気もないから、君を脅してくるんだよ」


「そうなのかな?」


「うん、結城さんが君とデートしていようと関係ないのにね」


「あっ、いや。あれは姉に突然用事が入ったから、デートしているように見えただけで、本当に何もないんだよ」


「そっか……何も……ないか」


 大和は俺の弁当をチラッと見て、空に目を向けた。


「その弁当はかなりの時間かけて作ったんだろうね」


「……そうかも」


「……そんな弁当作るのに、何もないかー」


「ちょ、だから母親が作った弁当だって!」


「俺は別にその弁当を誰が作ったか聞いてないよ」


 そう言って大和はニッコリと笑う。本当に嫌味なくらいの爽やかな笑顔だ。


「君たちは隣同士なのに、まるで他人のように振る舞うよね」


「……だから、特別、仲が良いわけじゃ……」


「ちょっと一口もらっていいかな?」


 大和は俺のステーキを指さした。


「どうぞ」


 大和は俺の弁当のステーキを一つつまむと口に入れた。


「……うん、これはかなり美味しいよ。とても女子高生が作ったものに思えないよね」


 大和はもう一度爽やかすぎる笑顔を見せる。


「いや、だから……これは母親が……」


「下で結城さんが食べてた弁当と同じでも?」


「……見てきたのか?」


「うん。朝からかなり騒ぎになってたからね。それにしても、あいつら馬鹿だよね。君が毎日屋上で弁当食べるのは、結城さんとお揃いの弁当だからなのにね」


「……ごめん。結城さんとは想像してるような仲ではないんだ。ただ、姉さん繋がりで親しくなったと言うか……」


「あー、気にしないでいいよ。誰にも言わない。結城さんが君を好きかどうかなんて、俺には関係ないからね」


「いや、俺と釣り合いも取れないし、俺が料理とかてんでダメだから、そのただの同情で作ってくれてるだけだから……」


「そっか。同情か」


 大和は最後のパンを食べると席を立ち背伸びをした。


「好きとかそう言う関係じゃないから……」


 美由が俺を好きなんて思い上がりも甚だしい。同じマンションにいる全く料理のできない俺に同情しただけだ。姉さんからも世話をして欲しいと言われてるようだしな。


「結城さんは……、クラスで一番目立つ女の子だから、本当にたくさんの男子が誰と付き合うかで、騒ぎになっている。一番注目度の高い女の子だ」


「……確かにそうだね」


「ラブレターも何通ももらってるらしい」


 それは初めて知った。川上先輩以外にもラブレターを何通も受け取っていたんだな。


「告白も夏休み前、何度もされてたようだ」


 川上先輩の他にも告白されてたのか。別に不思議ではないんだけども……。


「だから、ハリウッドに一緒に行った君に対してなぜお前が、とさっきの奴のような奴がでてくる」


「確かに……天使のような笑顔ですもんね」


「うん……、そうだね。可愛く、そして本当に心の綺麗な子だよ」


「大和さんから見てもそう思いますか?」


「うん」


 やはりそうか。クラス一イケメンの大和から見ても美由は別格なんだ。


「ねえ……もしも、俺が結城さんに告白するって言ったら君はどうするかな?」 


「……えっ……」


 俺は思わず驚いて大和を見た。心の中に強い嫉妬心が渦巻いてくる。なんだよ、これ。釣り合いが取れないと思ってるのに……。でも、大和が美由に告白したら、きっと受け入れるだろう。こんなイケメンで爽やかなんだから当然だ。


「……やはりか」


「えっ!?」


「そうか、君も結城さんのことが……。じゃあ、試しに俺も告白してみようかな」


 そう言って大和は悪戯そうに笑った。


「大和は結城さんのことが好きなのか?」


「どうだろうね。付き合ってみないと分からないよ。じゃあ、今日にでも告白してみるから。君から奪い取ってしまうかも知らないから、先に言っておこうと思ってね」


「奪い取るとか……その俺たちはただの友達なだけで……そのなんでもないと言うか」


「そうか、君がそう思うなら、それでいいけどね」


 そう言って大和は、昇降口の扉を開けた。


「ステーキありがとうね。おいしかったよ」


 俺は抑え切れない胸の痛みを感じた。このままじゃ、美由を大和に取られてしまう。


 いや、何を言ってるんだ。そもそも美由は俺が好きなわけでもないし、俺も美由のことが好きでも……。


「なんなんだよ、この胸の痛みはよ!!!」

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