第45話 鈍い?

「分かってないの、幸人の方だよ!」


 この言葉がどうも引っかかった。美由は何を言いたかったのだろうか。


 それからアトラクションにいくつか乗って楽しんだ。美由の横顔があまりにも眩しすぎて、堪らない。


 美由は俺のことをどう思ってるのだろうか。少なくとも、大切な友達としては見てくれてるような気がした。


「分からないよなあ」


 マンションに戻ってからも、ずっと考えていた。もちろん答えなんて出るわけがない。


(ハリウッドスタジオ、楽しんだかな。わたし、帰るね)


 そして唐突に姉さんも帰って行った。色々と聞きたいことあったのになあ。


 今日はパーク内でご飯も済ませてきたので、寝るだけだ。美由は楽しかったね、と言ってくれたが、なんか釈然としなかった。


 分かってないの、本当に俺だよな。


 そう思いながら、いつの間にか寝てしまった。




――――――





「あーっ、今日から学校かー」


 色々ありすぎる夏休みだった。こんなにイベントがあった夏休みなんて初めてだな。美由に彼氏ができたら、美由ロスを強く感じそうだ。


 俺はいつものようにお弁当を受け取るために公園に行った。


「おはよー」


「今日から学校、だるいよなあ」


「そうかな。わたしは久しぶりに友達と会えるし楽しみかなあ」


「俺は友達いないしな」


「そんなことないよ、後ろの席の彼だってさ」


 きっと会いたがってるよ、とニッコリと微笑んだ。


 いや、忘れられてるんじゃないのかな。


 俺はそう思いながら、美由から弁当を受け取って学校に向かおうとベンチから腰を上げた。


「ねえ!」


「どうした?」


「一緒に登校してみる?」


「馬鹿言うなよ」


「言ってみただけ!」


 冗談でもそんなこと言うなよ。もし、人に見られたらどうするんだよ。


 俺はそう思いながら、先に学校に向かった。




――――――




「おい、どう言うことだよ!」


 教室に入ると開口一番に男子生徒から声をかけられた。


「えと、君は誰だっけ?」


「あのさあ、クラスメイトの名前さえ覚えてないわけ」


 そう言われてもなあ。目の前の男子生徒は明らかに敵意のある視線で俺を睨みつけた。


「俺は上村渡だよ。それよりさ、なぜ君が天使様と一緒にハリウッドにいたわけ?」


「はっ、……なに、それ?」


「昨日、君と天使様が一緒に歩いてる姿を見た奴がいるんだよ!」


 そうか美由はとても目立つ。俺たちは知らなくても、天使様を知らないクラスメイトなんていない。きっとどこかで見ていたんだ。


「しかもさ、仲良く手を繋いでいたと言うじゃねえか。ああ、どう言うことだよ!」


 クラスがざわついてると思ったら、そう言うことかよ。


 上村は俺に掴みかかろうとする勢いだ。


「確かに……俺は美……いや結城さんと一緒にいたけど、ハリウッドスタジオの予定は俺の姉さんが決めたことなんだ」


「なんだよ、それ」


 嘘は言ってない。


「俺の姉さんと結城さんは昔から仲が良くてな。それで一緒に遊びに行くことになったんだけど、姉さん途中で予定入って結果的にふたりで行くことになったんだよ」


「じゃあ、なぜ手を繋いでるんだよ!」


「それは……」


 俺と美由が友達なのはみんなには秘密だ。


「人混みに巻き込まれて、危なかったので引っ張っただけだよ。その時に偶然見たんじゃねえのか」


 それを聞いて上村はそっかーと安堵の息を吐いた。それでもふたりでいたことが釈然としないのかイライラしてる。


「あっ、美由ちゃん、おはよう」


「おはよう。夏休み楽しんだ?」


「うんうん、美由は?」


「わたしも楽しかったよ!」


 美由が教室に入ってくると、上村も後で聞くからな、と言って席に帰って行った。俺に聞くんじゃなくて美由に聞けよ。


 俺が席に着くと後ろの席の悠一が俺に話しかけてきた。


「久しぶり……だね」


「ああ、そうだな」


「夏休みは楽しめたようだね」


「……楽しめたって何をだよ」


「……うーん、デート、かな」


「そんなんじゃねえよ」


「まあ、俺にとってはどっちでもいいけどね」


「それにしてもさ、あいつらなぜ結城さんに聞かねえんだよ」


「誰も天使様に本当のことを聞けないんだよ」


「うーん、わかんねえよ」


「……もしさ、じゃあ付き合ってると言われたら、返答に困るだろ」


「おっ、おい……、何を言ってるんだよ」


「仮定の話だよ」


「付き合ってなんかいねえよ」


「じゃあ、言い方を変えてみるよ。じゃあ、もし君のことが好きだと言われたら、どう?」


「なに言ってるんだよ。そんなわけねえよ。そもそもさ……」


 俺はヒソヒソ話をするように小さな声で話す。美由が俺たちの話が気になるのか何度もチラ見してくる。


「俺と天使様だぜ。釣り合うと思うか?」


「釣り合わないね!」


「だろ!!!」


 やっぱり、悠一から見ても俺と天使様では釣り合いが取れない。俺の考えは間違ってなかったんだ。美由がしてるのは同情なんだ。そんなつまらないことをし続けるなんて、本当に優しいにも程があるぞ。


 俺がそう考え込んでいると教室に先生が入ってきて、静まり返る。


「じゃあ先生が来たから、この話はこれくらいにしようか」


「あっ、ああ……」


「でもさ、人から見た釣り合いなんて気にする必要あるのかな?」


「えっ……」


「どれだけたくさんの人から釣り合いが取れないと思われても、当の本人が君のこと好きなら、関係ないんじゃないかな?」


「なに言ってるだよ、そんなわけ……」


「あくまで仮定の話だよ。そもそも、俺は君のことも結城さんのことも知らないからね」


「それもそうだな」


「ただ、君は思い込みが激しすぎるところがあるな、と思ってね」


「……そうかな」


「人の気持ちなんて、そんな簡単なもんじゃないと思うけどね」


 問題は美由の気持ち……。美由は俺のことをどう思ってるのだろうか。


 美由は心配そうに俺を何度かチラッと見てくる。俺を気にしてくれるのは本当にただの優しさだけなんだろうか。


 考えても答えが出ない。わからないものは分からない。あー、なんかイライラするよ。





――――――




久しぶりに後書き書いてみます。


読者様の最後のツッコミ、私も同じ思いです。


俺はその鈍感なお前にイライラするよ!!!


ですね。


すごく分かります。


読んでいただきありがとうございます。


超宇宙級の鈍感男幸人くんをこれからも見てやってください。

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