第41話 ハリウッドスタジオの予定

「で、幸人くん、どうしましょうか!」


 目の前の美由が嬉しそうに笑う。なぜ、俺と一緒に行きたいのだろうか。俺と行っても楽しく無いだろう。同情なのか……。それとも将来、男友達ができた時の練習のつもりなのだろうか。


「ハリウッドスタジオでいいか!?」


 ハリウッドスタジオは埋立地に造られた大型アトラクション施設で映画で見た有名作品のアトラクションが置かれている。本場のハリウッドでは実際そこで映画撮影もやってるらしいが、日本のものはどちらかと言うと関係のないタイアップ物も多かった。


「東京のネズミーランドにも行きたいけども、今回はハリウッドスタジオに行こうか」


「夏には無理だろうね。帰省する時についでに寄ることはできると思うけども……」


「そっか! じゃあ、とりあえず夏休みはハリウッドスタジオ、冬にはネズミーランドに行こうよ!!」


 こちらに覗き込むように上目遣いで見るのが可愛く、そしてとても心臓に悪い。


 冬の話なんてしていいのだろうか。彼氏ができたら、俺なんかと行くわけないし……。


「まあ、ネズミーランドに行くかどうかは置いておくとして、とりあえずハリウッドスタジオだな」


「だよね。ハリウッドスタジオ初めてで楽しみだよ」


 テーマパークに初めて行くのに俺とでいいのだろうか。



「そうだ。姉さんも行くだろうから、聞いておこうか」


「幸人くんは二人じゃない方がいいのかな」


「えっ!?」


「な、なななっ、なんでもないよ。お姉さんにも言っといてよ」


 二人きりと言う言葉に俺の心臓は強く反応してしまう。なんのつもりなんだろうか。まさか、俺に……。


「そんなわけあるわけないだろ!!」


「びっくりした、どうしたの?」


「いや、なんでもない」


「大丈夫? 悩んでるなら聞くからね。ストレス溜まっていきなり叫ぶ人がいると言うし……」


「いや、違うって。ごめん、ごめん」


「なら、いいんだけどね。それよりさ。じゃあーん、これ何だと思う!」


 目の前に置かれた本を表を上にして俺に向けた。


「始めてのハリウッドスタジオ!?」


「そう! まさにわたしたちのための本だよね。ねえ、いつにしようか?」


 美由は俺の隣に席をつけた。近い……、近すぎる……。肩までの髪がさらさらと左右に揺れて、いい匂いを運んでくる。いや、これはやばいでしょう。


「えとさ、美由さん?」


「美由さん禁止!」


「あっ、ごめん。結城さんだよね。気づかなくてごめん。あまりにも馴れ馴れしかったよね」


 最近、下の名前が定着して来て、それが当たり前だった。でもさ……美由も下の名前を呼んでるんだよな。


「ぶーっ、その答えは0点です」


「はい???」


「美由ちゃん・・・、そう呼んでください」


「えっ! えーっ!?」


「美由……と呼び捨てでもいいよ」


「いや、……あの、それ馴れ馴れしすぎると言うか……」


「なぜ!? 親しくない人でもよく美由ちゃんと呼ぶよ……」


「それはダメだよ。親しき仲にも礼儀ありだ」


「他の人には呼んで欲しくないけど、幸人ならいいよ」


「えっ!?」


 美由は初めて俺の名前をくんづけではなく、呼び捨てで呼んだ。


「さあ、呼んでいいよ。美由、はいどうぞ」


「いや、あの……美由……さん」


「ぶーっ、違う違う……」


「美由……だよ」


「美由……ちゃん」


「まあ、及第点だね。それでいいよ!」


「いや、あの……」


「どうしたの?」


 美由は俺の顔に自分の顔を近づける。唇が目の前にある。少し近づいたら、くっつきそうだ。


「いや、あの……ごめん」


 俺は慌てて席を立つ。流石にこれはまずい。


「ごめんね」


「いや、そんなことは……ないけど……」


「わたし、一度帰るね……」


「じゃあ、姉さん帰ってきたら呼ぶよ」


「うん! そうして……」


 美由は皿を洗うと逃げるように部屋に帰って行った。


 なんなんだろう。俺が美由を呼び捨てだなんて……、あり得なくね。


 どうして、美由は料理を作ったり、掃除をしたり、そして一緒に遊びに行ったりしてくれるんだろう。


「大切な高校三年間なのにな」


 もっと恋愛すべきだと思う。美由ほど可愛ければ、いい男は見つかるだろう。高校生なんてあっという間に過ぎてしまう。


 俺はそんなことを考えながら、気がついたら眠っていた。




――――――




「おーい!!」


 誰かが身体をゆさゆさと揺さぶる。美由かな。その割にはえらく強い力で揺さぶられているような……。


「起きろ!! へたれ!!」


「はあ、なんだよ!!」


「へたれにへたれと言って何が悪い!!」


 なぜ、姉さんが怒っているのか俺は分からない。


「へたれってなんなんだよ」


「美由ちゃん、部屋に帰っちゃったじゃない」


「美由さんも予定とかあるんだよ」


「ない!!」


「なぜ、そう言い切れる」


「それは……いや……いいや。それより美由ちゃんをここに呼ぶ。ハリウッドスタジオの予定決めるんでしょ」


「あっ、そうそう……姉さんが帰ってきたらその話するつもりだった」


「なぜ、ふたりで行かないの?」


「はあっ!?」


「まあ、いいや。わたしがいないと全く近づかないもんね」


「なんだよ! それ!!」


「事実でしょ! まあ、美由ちゃんもかなり奥手だし……仕方ないか」


「なんのことだよ!!」


「さあね、その鈍い頭でずっと答えの見つからない答えを探してたらいいよ」


「わかんねえから、わかんねえって言ってるんだよ!!」


「まあ、鈍感男は置いといて、わたしは美由ちゃんを呼んでくるね」


 そう言うと姉さんは部屋から出て行った。それにしても姉さんって、嵐のような人だよな。

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