第39話 触れられたい? 撫でられたい?
「姉さん、いつまでここにいるの?」
「なによ、いちゃいけないみたいじゃない? そりゃさ、二人でイチャイチャしたいのはわかるよ。でもね、いさせてくれてもいいじゃん」
「いや、二人でイチャイチャとか、あるわけないだろ!!」
「ないのでしょうか?」
「なっ……美由さん何を言うんですか。美由さんは男性恐怖症で、二人きりだとまずいと言うか……」
「えーっ、美由ちゃん、二人きりになりたいんじゃなかったっけ?」
「ちょっと待ってください! 沙也加さん!!」
美由は顔を真っ赤にして怒ってる。確かに俺と一緒にいるのが嬉しいなんて言われて怒らないわけがない。それにしても顔は赤いが表情は怒ってるようには見えない。どちらかと言うと……照れてる? ないないないない。あり得ないって……。
「まあ、二人きりだと全く進展しないよね。だから、わたしが手伝ってあげてるんだよ」
「何をだよ!」
姉さんが何を勘違いしてるかは知らないが、美由は俺にこれっぽっちも好意なんて抱いてない。抱いてるのは同情だけだ。
「進展しないの? 辛くない?」
「……えっ!? えと、少しだけですが……」
姉さんの言葉に美由が小さく頷いた。えっ、もしかして俺にもう少しちゃんとして欲しいと言うところか。
「確かに……俺は掃除も任せきりだし、ご飯だって作ってもらってる。本当にダメダメだから、美由さんがイライラするのもわかる。だけど、もう少し長い目で見てくれたら……だめ……かな?」
「えと……そう言う意味じゃなくて……」
「だよねえ。そう言う意味じゃあ、絶対ないよね!」
「じゃあ、なんなんだよ。美由さんだって俺がちゃんと料理作って、掃除もするようになれば、来なくていいわけだよね?」
「いえ、そこはわたしがフォローすればいいわけですし……、偶然お近くにいるのですからね」
「でも、男性恐怖症の美由さんにとって迷惑じゃないかな?」
「いえ、迷惑なんて、そんな友達ですし……」
「そうだよね。友達だから、手くらい握りたいよね?」
「ちょっと、沙也加さん!!」
「握りたくないの?」
美由は手をゆっくりとこちらに出した。
「握りたい……かも……」
「えっ、ええええっ、でも……俺たちただの友達だし」
「友達でも手は繋ぎますよ!!」
首を少し傾げるところが可愛い。可愛いが、やはり俺と美由はただの友達だ。異性の友達は手を繋がないだろう。
「まあまあ、あまり考えすぎなくていいじゃん。美由ちゃんは男性恐怖症でも繋げるところを証明したいだけだよ」
「そう言うことなら……」
俺はおずおずと手を差し出して、美由の手にそっと自分の手を置いた。
美由はその手をぎゅっと握る。
「ちょ、ちょっと……!!!」
「大丈夫ですよ」
そう言えば美由は川上先輩に触れられるのはあからさまに嫌がったが、俺に触れるのを嫌がったことはない。まあ、男性として見られてないから当然のことなのだが……。それにしても美由の手は冷たくて、そして柔らかい。
「ほら、大丈夫ですよっ」
「大丈夫って、何が?」
「ちょっと、鈍いわねえ。美由ちゃんは幸人を怖くないと言ってるんだよ」
「それは俺が、弟だから?」
「そうかもしれませんね」
「美由ちゃん!! それでいいの!?」
「別に焦る必要なんてないかも……」
「まあ、そうかもね!!」
何を焦る必要なんてないのだろうか。まあ、俺に恐怖してないのはいい傾向だけども……。
「なら、少しずつ慣れていけば男性恐怖症自体が治るかもな」
「そうかもしれませんね」
美由はそう言うとニッコリと微笑んだ。確かに客観的に見ても凄く可愛い。天使様と言うあだ名なのも、川上先輩があそこまで固執したのもよくわかるな。
「そう言えばさ。期末テストだけどね、美由ちゃん、学年5位に入ったそうだよ」
「えっ、凄い。頭いいよね!!」
俺は30位だ。中堅高校と言っても5位以内は相当優秀だ。
「まあ、そう言うわけだから、褒めてもらいたいみたいよ」
「褒める!? 俺が……」
「うん、ご褒美が欲しいらしいね」
「何が欲しいんだ。俺、頼りない弟みたいだけど、自分では美由さんの兄さんと思ってるから、高くなければだけど、何か買ってあげようか」
「あっ、プレゼントも欲しいですが……今はそれ以外のご褒美を……」
「なんの……ご褒美……かな」
それにしても、ご褒美と言う言葉を美由が言うとなんか凄くエロく感じる。
「えーっ、もう忘れたの?」
「何を……?」
「覚えておいて、と言ったよね?」
俺は覚えておいて、と言う言葉を疑問に思い、何度か思い出そうとした。
「何かあったっけ?」
「この鳥頭め!!」
「鳥頭はないだろ!!」
「じゃあ、ヒント……、ホテルでわたしが覚えておいてって言ったよね。なんだっけ?」
覚えておいて……。そんなことあったっけ……。色々考えていき、姉さんが言った言葉に辿り着く。
「ちょ!!、……待てよ!!」
「思い出した?」
姉さんは凄く意地悪そうに笑っていた。撫でられるのが好きと言ってたっけ。でも、姉さんが撫でるのと俺が撫でるのとでは全く意味合いが違うだろ。
「ほら、撫でてあげたら?」
「できるか!!!」
姉さんも度がすぎるって。男が女の子の髪の毛に触れて許されるのは、付き合ってる男女だけだろ。俺が触れたら、二度と口を聞いてくれなくなるぞ。
「美由ちゃんはどう!?」
「えっ、、、、どどどどど……どうって?」
ほら、美由もいきなり振られて吃ってるだろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます