第37話 監禁じゃない!!

「要するにさ、男を選ぶなら将来性さ。俺にはこの会社もある。それにゆくゆくは川上家として親父の会社を継ぐことになる。分かるかね」


「はあっ!? 何言ってんのよ。バカじゃない。それなら、正々堂々と幸人と戦えばいいじゃない? こんな、せこいことしてさ」


「ふむ、お姉さんの意見もわかるけどね。何故か知らないけども、美由ちゃんは柏葉くんにほんのちょっとだけかもしれないけど好意を感じてるように俺は見えたんだ。だから、ここで冷静に話し合おうと思ってね」


「わたしが幸人くんのことどう思おうと、川上先輩には関係ないよね!!」


 美由は川上先輩に向かって強い口調で言い放った。


「否定はしないんだね」


「幸人くんをどう思うか? そんなこと、わたしだって分かりません。そんな簡単なことじゃない! でも、どちらかを選べと言われれば間違いなく幸人くんを選びます!!」


「おっ、とうとう言えたね!!」


 沙也加は美由の前でくるっと振り返り軽くウインクした。


「いえ、本当に今の気持ちがどうかなんて分かりません。そりゃ、柏葉くんには過去に返すことのできないくらいの恩があります」


「えと、どういうことなのかな? 過去って……」


 川上先輩は焦った表情で美由を見た。熱くもないのに額から汗が流れ落ちた。


「わたしが今ここにいるのは幸人くんのおかげです。幸人くんがいなければ、……わたしはきっと……」


 美由は悲しそうな顔をした。


「……生きてはいません」


「どう言うことなのか?」


 川上先輩は美由の方に一歩、一歩と近づこうとした。その前に腕を組んだ沙也加が立った。


「いいよ。その気持ちは……、馬鹿な幸人のために取っておきな。こんなやつに説明しても仕方がないよ」


 美由はその言葉を聞いて強く頷いた。


「どちらにせよ。過去の話は別としても、幸人くんと川上先輩なら、間違いなく幸人くんを選びます」


「どうして……、俺はこのホテルの社長だぞ……、それにこのグルーブのゆくゆくは社長になる」


 胸を強く叩いて、大きく頷いた。


「もしかして、親とかのことを心配してるか? そうだよな結婚となったら、嫁姑問題とかあるよな」


 川上先輩は美由の肩に手を置こうとして、沙也加に払われる。


「このっ、何するんだよ」


「今、美由の保護者はわたしだよ。幸人から指一本触れさせるな、と言われてる!!」


「ふざけるなよ」


「ふざけてるのはそっちだよね」


 川上先輩は自分の顔に手をつけた。


「美由ちゃん、目を覚ましたまえ。川上家には嫁姑問題もない。気になるなら、俺の親に会ってみるといい」


 安心していいよ、とニッコリと爽やかに笑う。


「親のことなんて、どうでもいいです」


「なっ!!」


「あなたと付き合うこともないのに、その後の生活なんて、考える必要なんて……」


 美由は手に力を入れ、語気を強めた。


「ないっ!!!」


 それを聞いた隣に立つ沙也加は美由の肩に手を置いて喜んだ。


「言った。美由ちゃん、とうとう言えたね!」


「はいっ、わたし。ちゃんと言えました」


「いい子、いい子」


 沙也加は美由の頭を数回撫でた。


「もうっ、わたし、子供じゃありません」


「そんなこと言って、撫でられキャラのくせに……」


「それはっ、ふたりの時だけの話ですっ!!」


「えーっ、美由ちゃんは幸人には撫でられたくないんだ?」


 沙也加の表情に悪戯っぽいものが見えた。


「もうっ、……そんなことないです!」


「なっ!!」


 絶句したのは川上先輩だった。今、聞いたことが聞き間違いだと思って、沙也加の言ったことをもう一度確かめるように聞く。


「ちょっと待て。今の聞き捨てならないぞ。美由ちゃんは幸人に撫でられたいと……そう言うのか?」


「えっ……その……、えと」


 美由は泣きそうになりながら、沙也加の方を見た。


「最後の一撃放ってやりなよ。それで全てがきっと終わるよ」


 美由は大きく頷いた。


「……はいっ!! 撫でられたいです!!」


「ぐわっー!!」


 川上先輩はその場で倒れた。慌てて執事が飛んでくる。


「あら、泡出して気絶してるよ」


「本当ですね。どうしてでしょう!!」


「そりゃあねえ、あんな告白したらね」


「あっ、あれはその、頑張った時とか、褒められたいですし……その、わたし撫でられるの……その、あの……嫌いではないですから……」


「それ、幸人の前で言ってやりなよ」


「言えるわけ……ないです……」


「じゃあ、わたしからお願いしてあげようか」


「言ったら、……」


「言ったら?」


「泣きますっ!!!」


 そう言って泣く真似をした。


「ああっ、ごめん、ごめんってば」


「冗談です」


「それ、心臓に悪いよ……」


「えへへへっ」


「まあ、それはさておき、これ警察に言ってもいいんだけどさ。監禁だよね」


 沙也加は執事に向かって、そう言い放つ。


「私たちはぼっちゃまの言う通りしただけでございます」


 そう言って執事は頭を深く下げた。


「確かにわたしたちも正確に話を聞いてなくて、監禁になってしまって申し訳ございません。彼は一人が好きなのだと聞いておりましたので」


「あの部屋の鍵は本当に壊れてるの!?」


「1週間後に業者が来るため、修理予定ではございました」


「じゃあ、壊れてるのは本当なのね。あのさ、このことをお父さんに報告するんだよね」


「しないわけには、いかないですな」


「じゃあ、その会議に私達を出席させてよ」


「ちょっと、沙也加さんっ!!」

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