第36話 助けたい
「助けに来たよ!!」
確か、ここはホテルだからテラスとかないはずだが、窓をよく見ると命綱で上の階と繋がれてた。もちろん美由にもそのロープは繋がれてる。
さっきまで夕方だった空は明るくなっていた。て言うか俺、朝まで寝てたのかよ。
「ちょっと待って!! 窓を開けるから」
窓を開けようとするが、施錠されてて開かない。くそっ、やはりそんな簡単には行かないか。
「やはり開かないのね。幸人下がってて!!」
「ちょ、ちょっと待って!!」
なんか物騒なものを手に持ってるんだけど……。銃か銃なのか?
「これはハンドガンだけど、かなり強いからね」
俺は慌てて離れた。ハンドガンは音もなく、ガラスを割って、そのまま落ちた。
「ほら、ガラスの破片危ないから靴を履いて、姉さんのところに来なさい」
「て言うか、なぜそんな物騒なものを持ってるんだよ!!」
「うん!? デザートイーグルのこと? 大丈夫、これは本物よりは弱いからね」
「なぜ、姉さんがこんなものを持ってるの?」
「今の時代、便利だよね。3Dプリンターで簡単に作れるなんてさ」
「て言うか銃刀法違反じゃないかよ」
「バレなきゃ大丈夫だよ。あっ、そうそうやばいからそこに落ちた弾丸取っておいて」
「証拠隠滅かよ!!」
「いいじゃん、助かったんだし」
まあ、助けに来てくれたのは事実だ。それにしても、本物のハンドガンを持ってるとは。しかも、デザートイーグルと言えば象も倒すと言うぞ。敵に回したら怖えな。
「早くこっちに来てよ!! この体勢辛いんだよ!!」
「あっ、そうか」
俺は姉に捕まり、そのまま一階に降りた。
「荷物はどうするんだよ!」
「逃げる必要なんてないよ。ちゃんと白状させたからさ」
姉さんはロープを上手く調整して一階に降りた。
「どう言うこと?」
「昨日の夜、大変だったんだよ。201号室の鍵が壊れたと言ってね。美由ちゃんが何度かけても電話が繋がらないし、内線も繋がらないしでさ」
――――――――
(少し前に遡ります。なお客観視点になります)
「どう言うことなのよ。なぜ201号室が開かないのよ!!」
「ごめんね。扉の調子が悪かったようなんだ。すぐに鍵業者を手配したから、それまで待っててくれたらいいよ」
「鍵屋さんなら、呼んだら1時間もあれば来ますよね。良かった」
川上先輩は、それを聞くとニヤリと笑った。
「それがさ、この鍵特注品で簡単には行かないようだ。うん、1週間もすれば鍵は絶対開くからね」
美由はそれを聞いてその場にへたり込んだ。無理もないだろう。1週間は長すぎた。
「1週間も何も食べないなんて、そんな……」
それを聞いた川上先輩は爽やかな笑顔をしながら美由の肩に手を置く。
「大丈夫。偶然にも食料が冷蔵庫に入ってたんだ。レトルトだけどね。それは柏葉くんにも伝えてるからさ」
川上先輩は足をついて美由と視線を合わせた。
「不安になるのは、分かる。俺も同じ気持ちだよ」
「川上先輩……」
「大丈夫。安心して……、美由ちゃんは1週間、楽しんでいたらいいからね。一緒に楽しもうよ」
「……えと、……」
川上先輩は美由の頬に手を触れた。
「かわいそうに……」
美由はそれに気づいて、距離を置こうとする。
「逃がさないよ!!」
川上先輩は美由の身体を抱こうと近づこうとした。
「ふざけてる?」
沙也加が美由と川上先輩の間に入った。
「あっ、お姉さん……、いたのですね」
「何をしようとしてるのかわかってるけどさ。まず、美由は男性恐怖症……、分かってるよね。第二に鍵が開かないなんて、こんな馬鹿げたシナリオ、きっとあなたが考えたんでしょうけども、馬鹿馬鹿しすぎるよ」
「どう言うことですか?」
「繋がらない内線、繋がらない携帯電話……、そして用意された食料。なぜ、この部屋だけ偶然にもそんなにも食料があるのかしらね」
「あっ……、本当ですよ。お姉さん、よく分かりましたね」
「と言うか美由ちゃんは人を信じすぎるよ。幸人に対しては、それで大丈夫だけどさ、こいつをその考えで信じたら碌なことにならないよ」
「ごめんなさい。わたし、……信じちゃってました」
「ちょっと待ってよ。それじゃあ、まるで……」
「まるでって……何……幸人を監禁してるんだよね」
川上先輩はそれを聞いて、大きく笑った。
「柏葉くんのお姉さんは頭がいいね。別に彼を取って食おうなんて思ってないよ。たださ、すごく邪魔なんだ」
「でしょうね。あなたの狙いは美由ちゃんだからね」
美由はそれを聞くと驚いた表情をする。
「美由ちゃん、よく考えてよ。俺とあいつとどちらがいいかをさ」
「どう言うことですか?」
「柏葉くんに優しくしてあげてたみたいだけど、意味ないよね。だって彼は俺みたいにお金もないし、力もない。そうだろう」
「それがどうしましたか?」
「美由ちゃんは、優しい男の子がきっと好きなんだろうね。確かに過去に嫌なことされたなら、そう言う男の子に惹かれるのも分かる。そして、どうやら美由ちゃんは俺が勘違いしてなければ、驚くことにあの男に多少なりとも好意を持ってるようだ」
「……回りくどいやつだね。何が言いたいんだね?」
沙也加は美由の前に立ち、イライラとした表情を隠すことなく川上を睨みつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます