第35話 監禁!?

「あー、やっと一人か!」


 川上先輩に呼び出されて絶対に301号室に行くなよ、と忠告されてからの流れを思い出す。


 美由も気を遣いすぎなんだよ。俺なんかに気を使わなくていいのにな。俺と美由はよく似てるのかもしれない。


 美由は中学の時、大きないじめにあった。可愛いから女子の嫉妬が相当大きかったのだろう。


「女の子のいじめは男以上だと言うしな」


 俺も同じような生い立ちがあるから、同情のような気持ちが芽生えたんだろう。姉さんに何を言われてたのか知らないが、俺と美由は根本的に違うんだよ。


 女の子の扱いのわからなかった中学と異なり高校生になると女の子の扱いが分かってくる。学年の誰よりも可愛い美由に好意に酷いことをする男子などいるわけがない。


「むしろだ!!」


 チヤホヤされると思う。川上先輩はそれが分かってるから焦ってるのだろう。俺から見ると川上先輩は落第点だが、美由と付き合っていくうちに少しずつ変わっていくのじゃないか。


 誰から見てもお似合いの二人。俺と違って一緒にいても周りから不信に思われることもないだろう。


「それに守ってくれるだろうしな」


 まあ、美由は姉さんに任せておけばいい。もし、川上先輩が無理やりに何かしようとしても姉さんが止めるだろう。


「そうだ! 温泉があったんだ」


 俺は温泉があったことを思い出し部屋を出ようとした。


「あれ!? 開かないぞ」


 扉に鍵がかかっていて開けることができない。なんなんだ、このホテルこんなに綺麗なのに、扉が壊れてる部屋があるのか。


 ガチャガチャと何度か動かしてみたが、全く開かない。


「内線番号は……」


 俺は美由と姉さんを呼ぼうと内線301を押した。


「あれ、繋がらないぞ。なぜだ!?」


 仕方がないのでスマホでLINEを送ろうとした。


「あれ!? このホテル電波が来てないのか?」


 そんなわけはない。先ほどまでは普通に連絡を取っていたのだから。俺は慌ててフロントに内線した。


「どうしましたか?」


 年配の男性スタッフの声を聞いて俺はホッとした。


「あのさ、扉開かないみたいなんだ」


「そうなのでございますか。じゃあ、業者を呼びますので、しばらくお待ちいただけますか。幸いその部屋には、風呂もトイレもございますし、料理に関しましては冷蔵庫のもので申し訳ございませんが、数日は大丈夫なくらいの食料が入っておりますから……」


「えっ!? この扉の修理って数日を要するかもしれないの?」


「なに分特注品でございますからな。本当に申し訳ございません。それにしても、食料を用意しておいて本当に良かったです」


 俺は内線電話を切った。外線に切り替えれば、美由と連絡できるんじゃないのか。俺は外線に切り替えるボタンを押す。


「あれ、変わらない」


 話がうますぎる。突然、開かなくなった扉。用意された食料。繋がらない外線と電波が立たない携帯電話。


 これは川上先輩に一杯食わせられたと思う。美由はただ、俺を頼りない弟として弁当や料理を作ってくれたり、掃除をしてくれてるだけだが、川上先輩にしてみれば俺と美由の間に何かがあってもおかしくないと感じるはずだ。


 俺は男で美由は女の子だ。そんなこと天に誓ってもありえないが、俺が無理やり押し倒したら、美由は抵抗することができない。


「……するわけないだろ!!」


 それに……。川上先輩は美由を攻略するために、このホテルを用意したとも言える。金の匂いに女性は弱い。それは将来を考えたら当然だ。


 俺と結婚するより、川上先輩と結婚する方が遥かにリスクは少ない。まあ、父親や母親との関係など想像できないリスクはたくさんあるが、少なくとも俺ほどではない。


「それにしてもフェアじゃなさすぎだろ」


 まあ、こうなってしまったら仕方がない。数日間はこの部屋で過ごすかな。


 俺はそう思って冷蔵庫を開けるとレトルトばかりだが、カップラーメンやレンジで温めるだけで食べられるご飯などがたくさん入っていた。


「何日泊まらせるつもりだよ!!」


 俺は思わずベッドに横になって文句を言う。


 それにしても川上先輩が俺をライバルと思ってることが滑稽だった。


 学年一の美少女が俺なんかに恋をするなんて、あり得なくね。


 そう思いながら俺はやがて眠くなってきて、気がついた時には夢を見ていた。


「……ゆきちゃん、ゆきちゃん……」


「だから、ゆきちゃんなんて女の子みたいだろ」


「でも、幸人だから、ゆきちゃんだよね」


 これは俺の知らない記憶だ。見た目からして、幼稚園くらいだろうか。


 輪郭がぼやけてはっきりと見えない。髪の毛の長さから、目の前にいるのは女の子のように見えるが、誰かはっきりとは、分からない。


「まあ、夢だしな!」


 夢は不思議なものだ。見たことのない光景を、まるで起こった出来事ように俺の前に見せる。


 それにしてもやけにうるさい夢だよな。ゴンゴンと窓を叩く音なんて、目の前に窓なんてないじゃないか?


 あれ? この音は夢の中じゃなくて実際に鳴っているようだ。


「はっ!!」


 俺は大きな音に目を覚ました。窓の外を見て驚く。


「やっと、気づいたよ!!」


「本当にこんな状況でよく寝るよね」


 どう言うことだ。2階の窓の外に美由を抱いた姉さんがいた。


 

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