第29話 海水浴の計画
「そう言えばさ、美由ちゃん、海水浴行きたくない!?」
「えっ!? ご一緒させてもらって良いんですか?」
おいおい、そこは気を遣わなくていいんだよ。
「じゃあ、俺は行かない方がいいのかな?」
流石に友達と行っても男子と女子とでは違う。そもそも、俺なんかが一緒に行くなんて言ったら空気読まない奴になってしまう。
「何言ってんのよ。幸人が行かなきゃ始まらないじゃない。ねえ!?」
「それ、誰に同意求めてるんだよ?」
「ねっ、美由ちゃん!?」
ほら、美由は耳まで真っ赤にして俯いてるじゃん。美由も俺なんかに気を遣わずに……。
「姉さんなんかのこと気にしないでいいからさ。俺なんかと行きたくないだろ」
「……ぃぇ……」
ほうら嫌がってるじゃねえかよ。姉さんも空気読めよって……。
「……ぃゃ、じゃなぃです……」
はて、俺の聞き間違いだろう。流石に俺なんかに水着姿を見せたくないはずだ。
「ほおら、姉さん、結城さんは嫌がってるじゃないかよ」
「お前は……どうしてそんなに朴念仁なんだよ」
姉さんは美由の肩に手を置いて嬉しそうにした。
「と言うことで、幸人は決定だね」
「姉さん、今俺の言ってたこと聞いてたか?」
「それは、わたしがそっくりそのまま返したいね」
ほらほら、美由は蒸気でも吹き出しそうに真っ赤になって怒ってるじゃないか。よっぽど行きたくないんだろうな。
「ごめんな、姉さん決めたら変えない性格でさ」
「いえ、大丈夫です!!」
美由が姉さんを大切にしてくれてることが分かって俺も嬉しい。でも、美由は言いたいことを言った方がいいぞ。
「じゃあ、あとはお金だけかな。どうせなら、贅沢にバカンスしたいよね」
「そんな金あるわけねえだろ。それよか姉さんあるのかよ」
「ないよ。ここに来るのだって本来は請求したいくらいだしさ」
て言うか勝手に来たのに請求されちゃ敵わない。
「恋のキューピッドとしてね」
「ふざけんな」
「そんなこと言って……、そのうちわたしの方に足を向けて眠れなくなるよ」
「あり得ないな」
「ねっー!? 美由ちゃんはそう思うでしょ!」
美由がプシューと言う湯気を吹き出して倒れた。
「ちょ、ちょっと美由ちゃん大丈夫!?」
「はい、大丈夫れす……」
ちっとも大丈夫じゃなさそうだった。
それから俺のベッドに寝かせたり大変だった。
「なあ、姉さん。ここに寝かせるんじゃなくて、部屋に連れて行ってあげた方が良くないか?」
「いえ、大丈夫……!! だよ……」
美由は俺のベッドから跳ね起きようとした。だから、美由は無理しすぎなんだよ。
「じゃあ、電話番号教えて?」
「誰のだよ」
「あんたのスマホに登録されてるリストなんてしれてるでしょうが」
えらい言い草だ。まあ、本当だけども……。
「母さんか?」
「それなら、もう電話してる……」
「それもそうか……じゃあ、結城さん?……」
「知らないわけないよね。しかも、ここにいるのにわたしは、なぜスマホを取り出してそこにいる美由ちゃんに連絡するんだよ」
それはそれで、かなりシュールだよな。
「じゃあ、誰だよ」
「川上先輩!!」
姉さんが、なぜ川上先輩のことを知ってるんだよ。
「なぜ川上先輩なんだよ?」
「金持ちだからかな?」
「美由がそう言ったのか?」
「この娘は何も知らないよ。でも川上家と言えば京都で有名な御三家じゃん」
「知らねえよ」
「美由ちゃんももったいないよね。川上先輩にしとけばいいのに……」
「なんだよ、それ?」
「将来の玉の輿だよ」
そうか、そんなに金持ちなんかよ。こうして、俺が敵わないものリストに家柄が追加されることになった。
「で、なぜ。川上先輩が別荘まで用意するんだよ」
「喜んですると思うよ。さあさあ、電話してよ」
俺は隣で横になる美由をチラッと見てから、川上先輩に連絡した。友達だから大丈夫だよな。
少なくとも俺みたいな好きでもない相手にあんなに顔を真っ赤にして嫌がりながらも受け入れてくれている。なら、川上先輩なら余裕だろう。
俺はスマホを取り出し川上先輩に電話をかけた。数回の呼び出しの後、通話に切り替わる。
「どうした!?」
うっわー、すごく不機嫌そうだな。本当に優しいのかよ。少なくとも俺には優しくはなさそうだ。
「えとですね。川上先輩、海の前にある別荘持ってませんか?」
「持ってはいるが、それがどうした?」
「それなら、その別荘に夏休みに泳ぎに行きませんか?」
数十秒の沈黙後、川上先輩のすごく不満そうな声が返ってきた。
「なぜ、君に別荘を提供してやらないとならないのだ」
すぐに切りそうな勢いだ。
「幸人、お前は馬鹿か!!」
姉さんが俺のスマホを取り上げるとすぐに自己紹介を始めた。
「そうです。美由ちゃんと姉のわたし、それと幸人と海水浴に行く計画を立ててるんですけど、川上先輩も行きませんか?」
なんか、俺の時とは違って話が弾んでる。
「そうですよ。もちろん
姉さんは美由ちゃんを強調した。数分後、電話を切った姉が嬉しそうに俺を見た。
「オッケーだってさ」
「なぜ、俺の時はダメだったのに、オッケーになるんだよ」
「さあ、なぜでしょうね」
俺にはなんのことか分からねえ。ただ、少なくとも今年の夏は別荘でバカンスができそうだ。
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