第26話 過去のこと
「夏帆、なぜお前がここに!?」
「何故って、さっきから居たよ」
川上先輩はずっといたことに相当驚いているようだった。無理もない。俺も河北さんが後ろでご飯を食べていたなんて全く思いもしなかった。
「まあいい。それより俺と柏葉くんはライバルじゃないのかな?」
「うーん!?」
美由は不思議そうな顔をする。そうだ、美由にとっては、俺も川上先輩もお友達と言う意味では全く変わらない。
「柏葉……くんはそれでいいのか」
いいと言われても美由が決めた事だし、俺は従うしかない。
「いいも何も美由が決めた事ですし……」
「俺は諦めたわけじゃないぞ。それでもいいのか……!?」
「はい」
俺が美由の恋人だったら嫌がっただろう。でも、俺と美由はただの友達だ。なら、答えは決まっている。
「ちょっと盛り上がってるところ申し訳ないんですけども、わたしは!?」
「あっ、そうだ。夏帆、お前いたのか」
「いたのか、って酷いよ。裸見せ合いっこした仲なのに……」
「ちょ、ちょっと待てよ。それは小学生の頃の話だろう!!」
「小学生だって、乙女の柔肌を見たのは事実だよ!」
「柔肌ってなんだよ。それに胸だって……」
「胸だって何? なかったらいいの?」
川上先輩の言葉に俺は思わずそのふくよかな膨らみを凝視してしまう。その視線を感じたのか河北さんは悪戯そうな笑顔を俺に向けてきた。
「そうだ!! 幸人昨日はごめんね」
今思い出した。この後何を言うのか簡単に想像できてしまう。
「あっ、その話はちょっと!!」
「何、その……自分の都合の悪いところは秘密にするの!?」
「いや、そう言うわけじゃなくて」
「えっ、聞きたい聞きたい……、そう言えば、昨日は早く帰ったよね。わたしだって全部言ったんだから、秘密にするのはずるいよー」
いや、それはそうだけど、色々と誤解されそうだ。
「昨日のキス……熱烈だったなあ」
「違う、違う、違う!! 昨日のは、……それにほっぺだったし」
「嘘!? 幸人、キスしたの?」
「いや、あれは押し倒されて……」
「でも、避けなかったよね。どうせなら唇を奪っとけばよかったか」
ちえっ、と言う声が聞こえてきそうだ。ちょっと待ってくれよ。さっきまで仲良くなれそうだったのにさ。
「幸人……くんがそんな人だったなんて……」
「だろ!? 柏葉くんは美由ちゃんには相応しくないんだよ。ここは俺が……恋人として……」
「えーっ、川上だってキスしたことあるよね」
「お前はどっちの味方なんだよ!?」
「どっちの味方でもないよ。それに秘密にしといたらダメって言ったよね」
「だが、それは小学校の時の事だろ!」
「小学校だって、充分女だよ。しかもファーストキスだったしさ」
なんか色々と話がややこしくなってるような。河北さんが一人乱してる気もしないわけではないが。
「で、キスしたのはどっちから?」
何故か美由はキスのことが気になるようだ。
「それは……河北さんから……」
「うわっ、最低、女の敵……!!」
ちょっと待ってくれよ。微妙に美由の視線が痛い。
――――――――
こうして小さな? いざこざはあったけど、俺と美由に加えて川上先輩、河北さんが新たに友達になった。
「はあっ……なんか色々あったな。ふたりも友達が増えたことが良かったのかどうか分からない」
俺がベッドに寝転んでいるとインターフォンが鳴った。きっと美由だ。お弁当を持ってきてくれたんだろう。
「開けるよ」
扉を開けると制服姿の美由がいた。
「あれ、着替えてないのか?」
「うん、テニス部に入ったんだよ。今日は初部活だったんだよ!」
俺は美由のミニスカートがひらひら揺れスコートがチラッと見える光景を想像してしまった。
「あーっ、今、いやらしいこと考えたでしょう!」
「いや、そんなことは……」
「ない?」
「いや、どうだろう」
「て、冗談……」
それにしてもテニス部か。テニス部は川上先輩のサッカー部の隣で練習している。それにテニス部の先輩は部類の女たらしと言われてる。大丈夫なんだろうか。
「まあ、男性恐怖症も治していかないといけないからね。わたしテニスは子供の頃やってたから……」
そう言って手をパンと合わせた。
「そうだ! 幸人も何かクラブ入りなよ。例えばそうだな……」
何故か幸人と呼ぶのが当たり前になってるが、ここは突っ込まないようにしよう。
「剣道部とか!!」
ちょっと待て。どんな偶然だよ。
「強いんでしょう?」
てか、美由はなぜ知ってるんだよ。
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