第25話 ふたり目の友達!?

「友達と言うのは柏葉くん、君のことだよね」


「えと、あれを止めたと言うなら、俺で合ってると思います」


「どうして、柏葉くんは俺と美由のことを邪魔するんだよ。まさか、柏葉くんは美由と付き合えると思ってるのか?」


 そう言うわけではない。川上先輩に言われなくても分かっている。俺と美由では全く釣り合いが取れない。


「えと、それは……結城さんが決めたことで、俺は、意見を言っただけです」


「おかしいじゃないか。君が俺の何を知ってるんだね。それとも何か、君は俺が嫌いなのか?」


 そんなことはない。幼馴染の河北さんからも、そして色々な人の話を総合しても川上先輩と美由はお似合いのカップルだ。


「夏帆からも聞いてるけど、君はいい人と言うじゃないか。なのに君は俺のことを邪魔するのかね」


「邪魔なんて、そんな……俺はそんなつもりで言ったわけでは……」


「ごめん……、こんなことを言いたいわけではないんだ。ただ、美由は俺じゃないと幸せにできないと思ってる。君は美由の何を知ってるのかね」


 俺は昨日まで男性恐怖症であることさえ知らなかった。


 なら、川上先輩の足を引っ張るべきじゃないんじゃないか。でも、それでも……。


「確かに俺は聞かれたため、意見を言ったまでです。それを決めたのは結城さんですよ」


「だから、君がそんなことを言わなければ……」


 川上先輩は、イライラしているようだった。俺の意見で美由が断ってくるとは思わなかったのだろう。それは俺も驚きだった。


「えと、川上先輩違うんだよ」


 俺が振り返るとそこには美由がいた。そう言えばさっき謝っていたな。俺のことを気にして来てくれたのだろうか。


「……美由ちゃん!!」


「柏葉くんに相談したのは本当なのだけど、わたし最初から決めてたんだよ。別に柏葉くんの意見に従ったわけでも、付き合うことをやめたわけでもないんだよ」


「じゃあ、なぜ……」


「寄り添うと言ってもらったのは、嬉しかったよ。そんなこと言ってくれる人今までにいなかったからね。でもね……違うんだよ」


 美由は、俺の隣に立ってゆっくりと深呼吸をした。


「ごめんね。どちらにせよ。今は誰とも付き合えない。男性恐怖症は過去のトラウマが発端だけど、これは誰かに寄り添ってもらって治すものじゃないんだよ。……それにね」


 美由は川上先輩の方をじっと見つめていた。


「川上先輩は焦ってる。きっと、人から断られたことがないからだと思う。もし、わたしが川上先輩と付き合ったら、きっと今と同じようにイライラさせると思う」


「そんなことは……」


「川上先輩、ごめんね。そうじゃないかもしれないけど、きっと川上先輩は軽く考えてる……、だから、断ったんだよ」


 そう言って俺の方に向いて頭を下げた。


「結果的に柏葉くんをだしに使ったようになってごめんね。これじゃあ、ダメだと思った。でも、ふたりで話すのが怖かったんだよ」


 美由の言うことは、なんとなく分かる。川上先輩はさっきからイライラしているのがハッキリと分かった。


「じゃあさ美由ちゃん。友達からでもいいからさ。そうだ、柏葉くんに手作り弁当を作ってくれてるだろ。俺にも……作ってくれよ」


 川上先輩はどうしても美由とのつながりを切りたくないのだろう。まあ、当然のことだ。美由は客観的に見てもかなり可愛い。こんな可愛い娘を諦めることは容易なことではない。


「……ごめんなさい」


 美由は川上先輩に向き直るとぺこりと頭を下げた。


「どうしてなんだよ。こいつに作れて俺には作れないと言うのかよ!!」


「だって、川上先輩には料理を作ってくれるお母さんがいるでしょう。わたしが作らないといけない理由がない」


「いや、だから俺は美由ちゃんの手料理が食べたくて……」


「ごめんなさい。柏葉くんに作ってるのは、別に川上先輩より好きだからとか、そう言うのとは違うんだよ」


 まあ、そりゃそうだ。少なくとも俺と美由では全く釣り合いが取れないのは分かってる。


「わたしが柏葉くんに弁当を作るようになったのは、彼は料理が作れないし、本当に何もできない人だから……、お母さんからもちゃんと見てやってくれって言われてるし……」


 予想したことだが、えらい言われようだ。


「じゃあ、なぜ……、俺の渡した映画のチケットを渡してこいつとデートしたんだよ」


「デート!?」


 美由は手をパンと叩いてニッコリと笑った。


「看病してくれたお礼なんだよ」


「看病って、あれは俺が移した……」


「看病ってなんだよ、それ。俺は美由ちゃんが病気だとか一度も聞いてないじゃないかよ」


「それは、ごめんね。ただ、柏葉くんとは同じマンションだからすぐ気がつけたのだと思う。わたしもそうだったし……」


「……、そうか……」


 川上先輩は今まで拒絶されることなどなかっただろう。その証拠に凄く落胆しているようだった。


「じゃあ、もう可能性は全くないと言うのか?」


 その表情からは諦めさえ感じられる。それはそうだろう。客観的に見ても美由と川上先輩はお似合いのカップルだ。しかも寄り添うと言っている。そこまで言ってダメならどうしようもない。


「いえ、そう言うわけでは……だから、わたしと柏葉くん、そして川上先輩……。三人ともお友達って事で……、どうかな?」


「えっ!?」


 美由の出した結論に俺も川上先輩も驚いた。そして美由は俺を見てニッコリと笑った。


「良かったね。ふたり目の友達だよ!」


 いや、むしろライバルなんじゃね。俺がライバルなんて、あり得ないけどもね。


「えと、それは……」


 もちろん川上先輩も喜んではいない。ただ、諦め切れないのだろう。川上先輩は結局これを飲むしかないのだ。


「わたしも……、その友達に入れてくれないかな?」


 後ろを振り返ると菓子パンを食べながら、ずっと見ていた女子がそう言った。


「夏帆!?」


 俺も川上先輩も美由も全く気づいていなかった。まさか河北さんがずっとここにいたなんて……。

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