第11話 映画館
「もう来てたの? 早いよ!」
「映画楽しみだったから……。それにしても柏葉くんはこんな映画で良かったかな?」
「恋愛映画はアニメ以外あまり見ないけど、大丈夫だよ。これ、面白そうだし……」
「良かった。じゃあ、ちょっと繁華街見ながら映画まで時間潰そうか?」
そう言って、美由は小走りに商店街に入っていく。
「ちょっと待ってよ」
「大丈夫、逃げないから!」
心なしか美由が楽しそうな気がする。
俺は商店街を美由と一緒に歩きながら、映画までの時間を過ごした。美由はネックレスや洋服を見るたびに可愛いと笑った。本当に屈託なく笑う娘だな。もし、美由と付き合えたら、と一瞬頭に浮かんで慌てて首を振った。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「おかしな、柏葉くんだねえ」
そのまま、ふたり一緒に映画館に入った。
「いつもご飯作ってくれてるお返しに、ポップコーンと飲み物代は出すよ」
「そんな、気を使わなくてもいいのに」
「そう言うわけにもいかないよ」
俺が売店に並ぶと美由はありがとうと言って俺の隣に並んだ。チラッと美由を見て思う。客観的に見ると本当に美由は天使だ。釣り合いが取れていないことは、みんなの視線を見れば分かる。今日、俺が美由と話すのを見て何度道行く人に睨まれたことか。
「じゃあ、また奢るからね」
「いや、そんなの悪いよ。映画代も出してくれてるのだからさ」
「それは川上先輩からもらったものだから、気にしなくていいよ」
「そう言うわけにはいかないよ。結城さんは、その……だから、気にしないだろうけども……」
思わず言ってしまったと思ったけど、彼女の2文字が雑踏にかき消されて聞こえなかったようだ。美由は一瞬、不思議そうな顔をして俺の隣に立った。
「コーラーとオレンジジュース、ポップコーンであわせて2500円でございます」
「……あっ、じゃあ、これで」
「3000円のお預かりになりますので、お返しは500円になりますね」
「ありがとうね。じゃあ、行こっか」
俺たちはそのまま、映画館に入った。
「たくさんの映画がやってるな。結城さんはやはり今回のような恋愛ものが好き?」
「わたしは、どうだろう。実は映画館あんまり来ないから、良くわからないかも……」
「そうなんだ、意外だね」
「ど田舎だったからね。電車乗り繋がないと映画館に行けなかったんだよ」
「俺も同じだ。でも、ネット配信とか見るだろ?」
「そう言うのも入れていいのなら、わたしはアクションが好きかな。スター○ォーズなんか好きかも」
「意外だねえ。じゃあ、恋愛ものはそんなに見ない?」
「そうかも。だから、逆に楽しみかもね」
そんなおしゃべりをしていたら、館内が暗転した。
「そろそろ、始まるね」
「うん」
――――――――
「本当に面白かったね」
俺たちは映画を見終わった後、別に予定が無かったため、併設の喫茶店に入った。もちろん、俺は川上先輩の話しをしようと思ったから誘ったのだ。流石に恋人でない彼氏持ちの女の子を部屋に入れるわけにはいかない。
「でも、悲しかった。悲恋もの苦手だよ!」
美由は涙を拭いてじっと俺を見た。主人公とヒロインは始まってすぐ仲良くなるが、実はヒロインは癌を患っており、死ぬ怖さを打ち分けていくと言う話だった。
「ラストで助かれば良かったんだけどなあ」
「それは仕方がないよ。そう言うテーマだし……」
「だよねえ。悲しい話だったけれども、彼女が彼の心の中に永遠に残り続けるんだったら良かったのかな?」
「どうだろう。わたしは嫌だな。それって男の人を縛りつけしまうよね。わたしなら、縛り付けるくらいなら、忘れてもらった方がいいと思う」
その感想に美由の優しさが溢れてるような気がした。川上先輩、幸せだよな。こんなにいい娘そうはいないぞ。
「それはそうと、この映画見て思ったんだけどね。やっぱり柏葉くんは栄養をちゃんと考えないとダメだよ。目を離すとカップラーメンで済まそうとするから、だめだよ!」
「そうだね。ちゃんと料理くらいは作れるようにしないとね」
「いや、柏葉くんは作れないだろうし、わたしが作るからいいけど……」
美由はそれがさも自然なように言った。それはまずいだろ。俺はこのままじゃダメだと身を乗り出した。
「そこなんだけどさ。料理はすぐにはうまくならないと思うけど、自炊するから今後、弁当を持参したり、料理を作りに来なくていいよ」
「えっ、なぜ!?」
一瞬美由は凄く悲しい顔をした。まさか、気のせいだろう。今のままじゃダメだ。ここは川上先輩のことをきちんと話さないと……。
「あのさ……」
「うん」
「映画までついてきて、ここで言うのもなんなんだけどね」
「うっ……うん」
「ただの友達同士なら、弁当とか手料理とか作るのはやり過ぎなような気がするんだよ」
「わたしの料理……嫌だった?」
そんなことあるわけないじゃないか!!
「いや、料理は美味しかったよ」
「わたしは、自分の料理の練習にもなるし、喜んでくれてるなら、今後も柏葉くんが良いなら料理を作りたいんだけど……」
ここまで言われてこの申し出を断れるわけがない。俺は川上先輩の話をしようと美由をじっと見て気がついた。
「あれ、顔少し赤くない?」
「やっぱりそう思う? なんかさ、さっきから熱っぽいなあ、と思ってたんだよ」
しまった。風邪が治ったからと言って美由と一緒に映画に来るべきじゃなかった。いや、そもそも熱があるのに看病してもらったこと自体が問題だったのかもしれない。
「ごめん、すぐに家に帰ろうよ」
「そうだね。わたし、一人で歩いて帰るから、柏葉くんは先帰ってくれていいよ」
本当に辛そうで額が汗だくなのに美由はこんな時でも俺を気遣ってくれる。こんな優しい娘を置いて行ったら、俺は自分を一生許さない。
「そんなこと言うなよ! 繁華街でたらタクシー呼ぶからさ。ほら身体に捕まって……」
「ごめんね、わたしってダメだね」
「そんなことないよ。ほら、歩けるかな」
「うっ……うん」
立ち上がると顔がどんどん赤くなっていく。額に手を置くと驚くほど熱かった。美由は辛そうな目でこちらを見て頭を下げた。
「本当にごめんね」
「何言ってるんだよ。ごめんを言うのは俺の方だよ」
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