第6話 告白
「なぜ、困るのですか!?」
美由が不思議そうに俺をじっと見つめる。
「いやさ、仮にも男の部屋だよ。何かあってからじゃ遅すぎると思うんだよね」
「だから、何もしないって言われましたよね」
美由は男の怖さを知らないから、そんなことが言えるんだ。部屋に入って豹変する男もいる。もちろん、俺が入れたくない理由は別にあるんだが……。
暫くの沈黙が流れたのち、美由は頭を下げた。
「ごめんなさい。無理にって言うわけじゃないんです。その方が玄関より受け渡しが楽かな、と思っただけなんですよ」
そう言って美由は俺に弁当を渡して自分の部屋に帰ってしまった。
部屋が散らかっているのを見られたくないと言うのが一番の理由だが、美由の男を信じすぎるところは危険だと思う。
俺は部屋に入ってテーブルに弁当を置き、洗面所で自分の顔をじっと見る。
「そんなに人畜無害に見えるかな?」
声に出して言ってみても答える者はいない。信用されてるのは嬉しいことだけれどもな。
俺は弁当を食べたあと、お笑い番組を見ていたら、いつの間にかソファで眠っていた。
――――――――
次の日、俺がいつもと同じ時間に公園のベンチに行くと、美由がもう来ていた。
「今日は、肩と腰が痛いよ!」
「どうしたんですか?」
「昨日、気がついたらソファで寝てたんだよ」
「ダメですよ。昼は暖かいですがそのまま寝たら風邪ひいちゃいますよ」
ふふふと笑いながら、オカンのような台詞を言う。
「はい、今日のお弁当ですよ!」
「いつも、ありがとうな」
「お金ももらってますので、大丈夫です」
「現金だなあ」
「はい!!」
俺たちはベンチで少し話した後、どちらともなく学校に向かって歩き出す。最近の俺たちの日課だ。そして、人が多くなりそうな登り坂付近でいつものように距離を取った。
「おはよう! みゆみゆ」
「おはよう。るりるり」
俺たちが距離を取って少し歩いていた時、美由の友達の石川瑠璃が走ってきて美由と並んだ。
「それにしても、柏葉いつも美由の側にいるね。もしかしてストーカー?」
「ちげえよ」
「怪しいねえ。みゆみゆ、何かあったら悲鳴あげるんだよ」
「だ、大丈夫だよ。柏葉くんそんなことしないと思う」
「確かに……、柏葉にそんな度胸あるわけないよね」
「いや、そう言う意味では……」
美由は何度かチラチラと俺を見てくるが、気づかれると困るので、俺はその視線を見なかったことにする。
暫く坂を登ると正門が見えてくる。最初に美由と瑠璃が入り、少し遅れて俺が正門を入る。そのまま校舎に入り下駄箱で靴を履き替える。
美由をチラッと見ると彼女も靴を履き替えようと下駄箱を開いたところだった。
「あれ、これ何だろ」
一枚の手紙がふわふわと舞って、ポトリと俺の目の前に落ちた。
俺は手紙を手に取り、そのまま美由に渡した。美由はそれを受け取ると不審そうに手紙の表面と裏面を見ている。
「うわっ、これラブレターだよ!」
「えっ!? そうなの?」
「こんな可愛い手紙なんてラブレターに決まってるよ。ほら後ろにハートマークだってあるしさ」
瑠璃が盛り上がっているのをチラッと見て俺はその横を通り過ぎた。正直、相手のことが気になるが、流石にこれ以上はプライバシーの領域だ。
「放課後、体育倉庫横の大きな木のところまで来てください」
どうやら瑠璃にはプライバシーと言う概念がないらしい。チラッと美由の方を見ると美由も俺に何か言いたそうにじっと見ていた。
「頑張れよ!!」
俺はそれだけ言って、そのまま教室に入る。相手が誰か分からないが、友達の告白なんて見に行ったらストーカーになってしまう。
応じるも、応じないも美由が決めることだ。そこに俺の意志が介在して良いわけがない。
二限目、三限目と時間だけが過ぎていく。美由は気にしてないのだろうか。隣の席の美由をチラッと見ると目が合った。
「うわっ!!」
俺は慌てて視線を外す。まさかこっち見てるとは思わないじゃないか。俺は悪いことをしてないにも関わらず内心ドキドキした。
お昼になると美由は友達の瑠璃と席をくっつけたため、俺は屋上に行くことにした。弁当の中身が同じだから、隣で食べているとバレバレだ。美由が弁当を作ると言った時に、同じ場所では食べないことを条件にした。
流石に美由も理由を説明したら、納得してくれたのだが……。
――――――
「なんかさ、サッカー部のエースの川上浩、いるじゃん」
「ああ、あのイケメンで頭もいいって話題のか」
俺が屋上で弁当を食べていると目の前で男子生徒の話す声が聞こえてきた。校章の色から二年生のようだ。
「そのイケメンがさ。今日、一年の女子に告白するみたいなんだよ!」
「ええ、マジか。追っかけしてる女子生徒もかなりいるよな。それ、かなり大荒れになるぞ」
「そうなんだよ!」
「そうか。あの先輩もとうとう身を固めるのか。で、相手は誰なんだ?」
「今年一年二組に無茶苦茶可愛い娘入ったの知らないか?」
「えと、結城美由ちゃんか?」
「おっ、その調子じゃ、お前も惚れた口か」
「もしかして、美由ちゃんに告白するのかよ!」
「そうだよ! 美男美女カップルの誕生だよ!!」
「うわっ、入学早々美由ちゃんロスかよ」
「確かに貴重な俺たちのアイドルのロスだが、川上なら仕方がないよ」
「まあ、そうだよな」
俺は美由の弁当を食べ終わると水道で綺麗に洗い流した。そっか美由は付き合うのか。あまり悪い話もない先輩だし、川上先輩なら美由を大切にしてくれるだろう。それにしても俺の充実した弁当ライフも短かったな。さすがに彼氏持ちの女の子に弁当を作ってもらうわけにいかねえよな。
「また、お一人様生活が始まるんだな」
そう独り言を言って俺は屋上を後にした。なぜだか胸をえぐるような鋭い痛みを感じたが、気のせいだろう。俺が去った屋上ではこの話題を聞いた他の生徒も話の輪に入って、大盛り上がりになっているようだった。
117位になりました。
みなさんのおかげです。
今後ともよろしくお願いします🙇
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