第4話 仲直り
結局、一限目、二限目と授業は進み、気がついたらすべての授業が滞りなく終わっていた。その日は一度も美由から近づいてくることもなく、他人同士のようだった。
「ねえ、美由。今日少しクラブ見ていかない?」
美由はクラスの女子に誘われて、クラブ見学に顔を出すようだった。一瞬こちらを見たような気がしたが気のせいだろう。
俺はそのままどこにも寄らずマンションに帰った。最近は親に自炊すると言った手前、弁当や外食ばかりでは食費が足りなくなる。仕方がないので、パンやカップラーメンなどがメインになりつつあった。
流石に今朝のようなことはまずいので、19時近くになってコンビニに行こうとマンションの扉を開ける。
「あれ、今からどこか行くのかな?」
さっき帰ったばかりなのだろう制服姿の美由がこちらに近づいてきた。手にはお弁当を持っている。
「いや、コンビニ弁当買いに行こうかと思って」
「ダメだよ! コンビニ弁当は添加物がいっぱい入っていて身体に悪いんだよ。もう、朝の話では料理作ると言ってたから、用意するのも悪いと思ったんだけど、気になって来たらやっぱりじゃない」
「いや、また弁当なんて悪いって……、それに俺たち、もう友達でもなんでもないんだろ?」
「えっ!? なんで」
それを聞いた美由が不思議そうに俺をじっと見る。
「もしかして柏葉くん、わたしと友達になるの嫌なのかな?」
「いや、そうじゃなくてだな。今朝言っただろ。俺とも友達にはならないって」
美由は俺の真剣な言葉を聞くと暫くじっと見つめていた。
「えっ、嘘……あれ本気にしたの?」
「いや、するだろ。普通……」
「普通しないよ。だって弁当作るって言ったよね。わたし、それ取り消してないよ」
「……てことは……」
「だって、学校でわたしと友達だとまずいでしょう」
まさかと思ったが、美由なりの気遣いだったのだ。確かにあのタイミングで俺だけ友達になったら、かなり不味かっただろう。
「でもさ、何故他のやつのこと断ったんだ」
「じゃあ、正直に言うね。これ結構、はっきり言うから、びっくりしないでね」
「ああ……」
美由は目を閉じてごくりと唾を飲み込んだ。その表情から、美由は俺を信頼して言ってくれてるのがわかる。
「あの人たちはわたしと友達になりたいんじゃないんだよ。あの人たちはわたしとキスしたり、エ○チしたいだけ……、そんなのオッケーするわけないよね」
美由の瞳が少し涙に濡れていた。この台詞を言うのにどれほどの決意があったのか男の俺には分からない。それでも相当な勇気がいったのは確実だった。
「ごめんな。辛いこと言わせてな」
「いいの、分かってるから、あの人たちと柏葉くんは違うんだよ。だから、わたしは柏葉くんと友達になりたいと思った」
なんとなく分かるような気がした。可愛くて胸が大きくて悪い意味で言うと男好きのする身体の美由は、本当の意味での異性の友達は作れない。
「俺はあいつらと何故違うって思ったんだ?」
「うーん、それは秘密かな。でも、そうじゃないかな。そもそもね……」
美由は涙を拭いてニッコリと笑う。
「もし、身体が目当てなら、わたしが友達になりたいと言って断るわけないよね」
そう言ってあははは、と笑った。確かにそれもそうか……。
俺は美由との関係をこれからどうしたいかハッキリと分かっているわけではない。彼女は魅力的な女の子だが、だからと言って、それだけで好きになることはない。
まあ勿論、美由だって俺のようなやつのことを好きなわけないしな。
「ありがとうな」
「じゃあ、これ貰ってよね」
そう言って美由は弁当を差し出してきた。
「いいのか?」
「うん、そのために作ったからね」
「その、……食材代とか掛かるだろ」
「もし、柏葉くんが食材の半分を出してくれるなら、わたしは毎日作ろうか、と思ってるよ」
「いや、それは流石に悪いよ」
「だってさ、柏葉くん、カップラーメンくらいしか作れないでしょ」
「えっ!?」
美由はそう言ってケラケラと笑った。なぜ、美由がそのことを知ってるんだ。今朝は湯豆腐くらい作れるって言ったじゃないか。
「どうして知ってるの?」
「秘密!、だよ!!」
いくら聞いても美由は笑うだけで教えてくれなかった。
「じゃあ、お弁当。明日からは1日200円渡してくれると嬉しいかな」
「それはあまりにも安すぎる」
「食材代だけならそんなもんだよ。じゃあ、そう言うことで、今日は聞いてくれて、ありがとうね。ちょっと言いたいこと言えて楽になったよ」
そう言って俺に弁当を渡して、自分の部屋に帰っていく。その後ろ姿を見ながら可愛い娘も楽じゃないなあ、と思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます