第44話


 十一月某日。


 馬鹿みたいな暑さは影を潜め、涼しさというよりも肌寒さを覚えるようになってきた今日この頃……。


 木田と宮田からバンドを辞める意思を伝えられた翌日、二人に解散する旨を伝えた。

 なにも解散する事は無いんじゃ?と、二人は言っていたが、実際問題それは難しい。

 なので、個人的にバンドを続ける可能性はあるが、コムはここできっちりと終わらせておきたいという意志を伝えたのだ。

 終始、二人は申し訳なさそうにしていたが……。

 だが、解散ライブはやりたいという事も伝え、納得してもらった。


 基本的には、僕と姉御で準備を進める事にした。

 色々なところに話を付けて、予定を合わせたりしていたら、あっという間に十一月になっていた。

 僕も一応は受験勉強を始めているが、コム結成以来、最初で最後の主催イベントに費やしている時間の方が圧倒的に多かった。


 会場はいつものボウル。

 本当はリフターを使いたかったのだが、ビックリな金額と融通の利かない対応で結局ボウルに落ち着いた。

 実際、集客的にもリフターを借りたら散々だったと思うが……。


 ボウルの店員さんに解散の話をしたところ、凄く残念がってくれて、かなり融通も聞いて貰えた。

 結果、参加バンドは僕らを含めて5バンド。

 通常通りライブハウスを借りる時間では難しかったのだが、ボウルの店長さんも協力してくれた為可能となった。

 この点だけでもボウルを選んで良かったと思える。

 たかだか一年ちょっとの付き合いなのにありがたい話だ。


 そしてそれは、今回参加してくれたバンドにも言える。

 今までのライブ等で仲良くなったバンドに声を掛けてみたところ、快諾して貰えた。

 そういった細かな温かさに、既に僕は感動してしまっていた。



  ◇  ◇  ◇



 そして、解散ライブ当日。


 僕達コムのメンバーは、他のバンドのメンバーよりも早く控え室に集まっていた。


 「何か、結構ライブやったけど、一番乗りって初めてだよね?」


 宮田は呆けた感じで言う。


 「確かにそうだね」


 姉御は感慨深そうに頷く。


 「まぁ、初めてといえば、僕等主催のイベントってのも初めてだから……そのくらいの意気込みは見せないと」

 「じゃあ、これが最初で最後かぁ……」


 木田の台詞に、メンバーの表情が暗くなる。


 「ごめん……なんか、そういう意味で言ったんじゃないんだ……」


 木田が申し訳なさそうに言うと――


 「そうだよね、間違っちゃいないよ。でも、その最後を暗く締めくくりたくないでしょ?なら、いつも通り楽しくやろうよ、コムらしくさ」


 姉御は声を張る。

 その言葉に僕等は勇気付けられ各々返事した。


 「私……バンドやって良かったと思ってるから……。皆と、良い思い出作れて……」


 宮田はすでに泣きそうだ、というか泣いている?

 姉御が宮田の頭をそっと撫でて――


 「まだ早いよ。あたし達、これからステージ立つんだから。そんなんじゃきちんとライブ出来ないよ」


 宮田は目を擦りながら応える。


 「そうだね……こんなんじゃ、最初のときの保科より酷くなっちゃうもんね」

 「そこで僕を出すのかよ!」


 良い雰囲気だったのに、思わず突っ込んでしまった。


 「あー。確かに初ライブの時のホッシーは酷かったな」


 木田も話題に乗っかる。


 「そんなの、皆同じだっただろ?」


 僕がそう言い返すと、メンバーは口を揃えて言った。


 「「「保科(ホッシー)よりはマシ」」」




 その後、他のバンドも控え室に入ってきて、それぞれ談話しながら控え室は大賑わいとなった。



  ◇  ◇  ◇



 全参加バンドのリハーサルを終え、後は本番を待つのみ。



 解散という事からか、はたまた参加バンド数が多いからか、理由はさておき客の入りは上々。



 ライブが始まり、僕等コムのメンバーは客席から他のバンドを見ている。

 参加バンド各々がコムの解散を惜しみ、労うMCをするので、いちいち目頭が熱くなる。

 しかし僕はことごとく、その感情を堪えた。


 まだ、終わってはいない……。




 気が付くと、このイベントのトリであり主役、僕等の出番が回ってきた。

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