ふたりめ12
今度は間違わない。
ガッツいてスグ様に治してしまってはありがたみも無く感謝の量も痩せてしまう。
もったいをつけ、じっくりと診察ぽい観察をした後、脈をとってもどし、溜息をついた後ゆっくりと首を振りながら・・・
毛足の深い絨毯の、それなりの部屋に通された先の小さなベッドの上、汗を流しながら苦し気に譫言を上げ続ける少女を目にした途端、湧き上がる強烈な差別感情により私の意思は完膚なきまでに吹き飛ばされてしまった。
「なおれ~(パタパタパタ・・」
案内してくれた侍従だか侍女だかわからんが女は僅かに眉を揺らすのみで―――恐らくは心に沸き上がった侮蔑と怒りを治めたのだろう―――こちらを向くと、容態を説明し始める。
「初めは僅かばかりの咳が続く程度でしたが次第に・・・」
容態の変化など詳しくも簡潔丁寧に整理された説明を全て聞くと、重々しく(もう遅せえよ・・・)見えるように頷きながら少女の脈をとり、のたまう。
「全てわかりました。体力が落ちたところにお家の御息女と同じ病にかかってしまったのでしょう。完治はしましたが、せめてこの娘と家族には十分な労いをかけて欲しく思います」
小説やドラマなどで見る、手術前に返した手を上げる動作で中空に水を出現させ充分に洗浄した後、魔法で奇麗にすればよかったのだと後悔しながら指先より水・・・飲用に適したものを、と念じながら滲ませつつ安息の寝息になった少女の唇、そして口内をゆっくりと湿らせてゆく。
「そんな・・・あのような雑な所作で?」
「お為ごかしの吃驚は要りませぬ。さあ」
女は全ての表情を消し深くヒザを折ると、瞑目して顔を伏せる。
「直ちに。こちらでございます」
急ぎたいであろうに、部屋を出てわたしの歩調を考えた速度で歩み始める。
適当なカマかけだったのだが、ホントに身代わりだったのか。
それに、所作と受け答えからだが、ひょっとしてこの女が・・・ナントカというこの家の主なのだろうか。
いやでも貴族て子供に冷淡だと聞くし、なんなら血が繋がって無い方が喜ばれるまで・・・いや、虚構サブカル群の知識を安易に当てにしてはいけない。
やはりというか、当主への目通りや身元の詮索も無くいきなり患者の部屋へと通される。
それなりに豪華と思われる寝台に横たわる青く透き通るような白い少女は、既に息をしていなかった。
「遅かったようです。どうかお引き取りを・・・セバス!客人に報酬を」
「生き返れ~パタパタ・・・」
「・・・いくら名のある医の心得があろうと、当家の死者で戯れることは許しません」
暫定女当主に正対し、右手を腹に上げ顔を伏せる。
「やはり貴き血を持つ方でらしたのですね、お初にお目もじ仕ります。医聖アクスクレビオスが娘にして末席を汚す者、弟子ハイジアと申します。どうかお見知り置き頂きたい」
「どのような大層な肩書があろうと今の無礼は看過できない。覚悟いただこう」
頭から小間使いを模したのか質素な頭巾が落ちると、つややかな黒髪に臈長けた白く美しいカオが現れた。
赤い瞳が燃えるように輝いている。
「わかりました。・・・では、せめて御息女の目の届かぬところにて仕置き受けたくお願い申し上げる」
「ここでよい。セバス、何をしている!はよ・・・」
重い音を立て、鯉口が切られた太刀が絨毯へと落ちた。
「は・・マスター・・・アンネリーゼ様が」
亡骸を振り返った黒髪の女は、眠そうに目を擦っている少女を見て硬直した。
「・・・母上、この絨毯は気に入っているのです。外でやっ」
「アリゼー!」
そうそう、アリゼーお嬢様といっていた。
そしてあの騎士は我が主ギルキスと言ったはず。
地名とか苗字ぽいが、この女の名か?
泣きながら少女を抱きしめる女主人。
感極まったのかフラフラと二人へ近づきカーペットに落ちた太刀に躓き倒れかける執事風の男を支える。
(おいおい、わたしがフリーになっているぞ。とりあえず退がるから人を付けてくれ)
私が暗殺者だったらもうみんな死んでたのでは?
などと鼻高々に小声で説教しながらセバスを見上げると、そのカオは無表情で固まっていた。
んん??
執事を支えようと上げた両腕、その左腋の下に震える切っ先が当てられていた。
ん?
(・・・あ!なるほど・・・まぁこのような体なのだよ。連行には応じる、済まぬな)
暗殺を疑ったのではなく、当主の弱み、娘への執着を知られた為に暗殺者として処理しようとしたのだろう。
執事が呼んだ侍女に連れられながら、なにかすごいハイソなとこへ入ってしまったと自分の場違い感を強く意識し、セバスにかましてしまった恥ずかしい説教を忘れようとするのであった・・・
しかしそれは、忘れようとすればするほど重く、深く・・・・・・・・
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