ふたり目8

光りの中にいる!


・・・しかし、次の瞬間には既に濃い闇の中で立ちすくんでいた。


真っ暗で、なにも見えない。


徐々に周囲に光が戻り始め、自分が砂嵐の中で立っていることにに気づく。


女は?


よろろ、と後ろを振り返ると、落下する感覚。


私は数メートルほど落ちたらしい。

固い床に。

暗くてよく見えない・・・ガラスか?微妙な凹凸やざらつきが有るも基本滑らかな手触りだ。


見上げると、濃い灰色の空に長く細い鳥のくちばしのようなカゲが伸びていた。


あそこから落ちた?


視線で辿ってゆくと、遠くこの盆地?の向こうへと・・・あ、落ちた。

崩れてゆき、こちらにも残骸が甲高い割れたガラスのような音を立てながら落ちた。


更なるファンタジー異世界へと送られてしまったのか?


徐々に白く、明るくなってきた。


火星だろうか?しかしこんなガラス質で床のような地面というイメージは無いが。

いや行ったこと無いしわからないのだが・・・うーむ、ちょっと走り回ってみよう。


前面に貼りつく大気が景色を歪ませる手前くらいの速度で、盆地を飛びだす。


目の前には地平迄なぎ倒された木々の絨毯が広がっていた。


視界も地球と変わらないほどにクリアになった。

更に遠くには山脈も見える。


脚をとめ、振り返る。


あの靄はなんだったのかと。



そこには、茎に三つの輪を付けた、巨大なキノコ雲が立っていた。



「ゲッ・・・ゲンバクか?!」



核兵器といえば全てゲンバクの世代でなにか申し訳ない。


あんな、子供の手に乗る石で、これほどの威力が?

さすがファンタジーといったところか・・・



E=mc二乗というやつか?


重さを30万x30万にかけるんだから、えーと石の重さが・・・二百グラムくらいか?

二個だから四百×九百万=さんじゅうろくおく。


三十六億パワーか・・・


秒あたりキロメートルとグラムを掛けて出たこの数字の意味は置いといて、魔法なんて意味無いくらい威力ありすぎなのでは?



中心部に立っていたときは真っ暗だったが、こうして離れて見るキノコ雲は白い。

多分発生した莫大な水蒸気とほぼ完全に近くまで燃焼された被爆物が巻き上がり日光を隠していたからなのだろう。


しかし・・・


「これは、いけない・・・」



あんなに沢山の人間を殺したというのに、得られたのは只のびっくりだけだ。


命乞いや恨みつらみの叫びどころか、恐怖もなにも発生する前に灰になってしまう。



爆撃機から落とせばそれなりの快感はあるのかもしれないが・・・私向きではない。


ひどい気分だ。


あの女が生きていさえいれば・・・これを前にどのような顔をするのだろう・・・果てのない悔恨が私の胸の内を搔きむしる。


いやいや、わたしと同じだろ。


ここはどこです!わたしの街へ戻して!!


とかそのような有様以上の何かは見つかるまい。


ため息。


せっかく手にした価値のあるなにかを、すべてドブに流してしまったような空虚さが私の胸を占めていった。


とりあえず、進まねば。


後悔は先へ立たない。


進んでも取り返せないのだ。


あっ・・・


心の鼓舞の順を間違え、思わず膝をつき私はそのまましばらく動けなかった。

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