ふたり目6

目の前の甘美な美酒たる二つの命の音曲が、女に向かって奏でられている。

何故だ、という裏切りへの失望が私の心を暗く灼いた。


そも、救済を要求できる身の代があるのかこの男たちは。


そう、女へ向けて発されている音曲のタイトルは救済の要求だ。


女を向く。


そもそも、死を要求していたこの女に現世の身分へと復帰する資格があるのか。



苛々と金は?資格は??と、こいつ等を殺すための理由を検討している私も私であるが・・・



あ!閃いた!



わたしが男たちから千切り取った手やら脚・・・を持ち上げ掛け、重さに尻もちをついた女に向かって言った。


「あなたの城というのは何処にある?この男たちはあなたの所有物なのか?」


女は道の先を指す。


「あれです。見えるでしょう」


目をやると、そこに忽然と城塞都市・・・という趣きの街が出現していた。

全然気づかなかった。

体が小さいというのは、状況や地形を確認するのにいささか問題があるな・・・


思うに、大人と言う自分の身の丈を倍で越える巨大な動物に気を取られ、静的なアセットは背景としてしか意識できないのだろう。


自家用車で、目的の店舗を探しながらの運転が危険だったことを思い出す。


クルマか・・・と前世の魅力的な乗り物に思いをはせたところで、その城よりキラキラと太陽光を反射する者たちが近づいてくるのが見えた。


「あれは・・・兵士か?」


この女の所在を確認し、私が助けねば死んでいたのだからお前の所有物はすべて私に生殺与奪の権利がある、と小学生的屁理屈の無理押しで棚ぼた的な大量虐殺の機会を得ようとした矢先に、次々とイベントが押し寄せてくる。



「これは天祐ですね・・・衛兵!この子供を捕えなさい!」



しびれるような焦燥が全身を駆け巡り、その熱さは一気に沸点を超えて霧散した。

頭の先から氷を詰められたように全身が冷えてゆく。


世界と自分が分離する時の感覚。

この時だけは、誰もが脳のあらゆる自由を取り戻す。


大抵はこの今の状況のように、完全に世の中に組み敷かれ手遅れに果てる無様で終わることになるのだが。


「?・・・御城主?!なぜこのような・・・いままでどちらへ・・・・・」


城主の顔知ってるってのも・・・いや、そういうものなのだろうか。

キミらの御城主様はちょっと後ろの道端で腐りかけてたんだけどね?


到着した兵士、金属の光沢を纒う大きな男が私の頭を掴もうと手を伸ばす。


身の毛のよだつ高い音が立ち、男は熱い鍋を触ったかのように素早く手を引いた。

続々と到着する兵士達は今の様を目にし、次々と手槍を構え私に向ける。


「おとなしく縄に付きなさい。手向かうと容赦しませんよ」


子どもの髪の毛を掴んで引き回すのは最大の容赦であるらしい。

さすが文化が違うな・・・


「・・・わたしは君に再びの礼をいわねばならぬようだな、ありがとう」


この女には恩がある。

思い上がりを諫めてくれたという恩が。


そして、私はその恩に既に報いた。

礼と、ちょうすごい力による再生、洗浄によって。


ざまを見ろ、してやったり、とでも言いそうな二人の達磨男の頭を、剣の平でゆっくりと潰してゆく。


金臭い音が連続して聞こえ始めるが、それは意に介すほどのことではない。

兵士達が秩序を実行しようと、無為無駄に私へと手槍などを突き込んでいるのだろう。


オトコの顔が驚愕から泣き顔へ、そして絶望へと色を失い消えてゆく様がたまらなく心地よい。




やはり頭蓋骨というものは剛性が高いようで、男の体を二つに割る迄その形を留めていた。

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