ふたり目5
「なあ、許してやってくれんか」
うーん、わかり味がある。
わたしは老人に向かって頷く。
「わかります。例えていう成れば、この三人をたちどころに癒し、自由を与え、その結果あなたという老人に命乞いされ助かったという恥を雪ぐために殺されるのだとしても、あなたはこの三人の若者を助けてくれと言うのでしょう」
「えっ?・・・あ、ああ!そうか、そうなるか・・・確かに」
老人が三人に目を向けると、三人は口々に否定を叫ぶ。
老人は私に目を戻し、言った。
「私も若かりし頃は、むやみやたらに殺生を行いました。子供を背に、命乞いをする女。逆に子供を盾に、命乞いをする男・・・老人など、何人殺したかわからない。・・・どうか、頼みます。そのかわり・・・いえ、交換条件など持ち出せる資格はありませんな。わたしの命は差し上げましょう」
「なにか、来歴の語りで男を差別的胸糞ケースへと当てたのはポリコ・・・いや、よかろう。そなたの命、貰い受ける」
目をつむる老人を、扇ぐ。
「肉体の絶頂期に若返れ~・・・・・ぱたぱた」
尺取り虫のように地面へと垂れていたアタマが高々と上がり、曲がっていた全ての間接がまっすぐに伸びてゆく。
私の口から、思わずため息が漏れてしまう。
「はぁ・・・なんという・・・」
私も三人の男も目を見開くばかり、コトバも出ない。
「どうか、その・・・ん、んんっ、あの・・・随分と縮まれましたな」
「こちらは縮んでなどおらぬ。お前が若返ったのだ」
男は太い首の上のカタチの良い頭を傾げ、すっかり黒くなったつややかに流れる頭髪を後ろへとすきながら困ったように笑む。
「たしかに、体中稀に見る爽快さに満ち満ちておりますが、若返る・・・ん?」
その後ひとりしき激しく吃驚した後、かなりしつこく礼を述べ立て、私の名を聞くといつ何時でもお力になります、と言って去っていった。
道を大きく外れ地平の山脈へと走ってゆく姿を見送る。
「嵐のようであったな・・・さて」
道の反対側へ落ちていた剣を拾い、戻る。
三つ並べた内の端のブツの頭に、剣の平を叩きつけた。
熟れ切ったトマトのように、抵抗なく潰れた。
「ああ・・・爽快だ」
もう命乞いとか要らないのでは?
殺すというのは究極の否定である、とホラー小説で読んだことがある。
誰もが他人を口汚く罵るのは、殺人の代償行為。
他人を否定することで、自分を肯定する。
きもちよくなろうとする。
自分より優れている人間も、穴を見つけたならば直ちに貶める。
浅ましい慰めを、ひと舐めでも得ようと。
本能なのだ。
気持ちよくなろうとする、本能。
ギャンギャンと喚きたて始めた二人の声も、いままでに耳にしてきたどんな音楽よりも素晴らしく感じる。
そう、ここに殺しの快感を引き立てる、一垂らしのスパイスを加える。
正義という名の・・・
「何をしているのです!あなたは!」
・・・とても激しい苛立ち、焦燥が身を駆け巡る。
オナ二ー途中に母親から夕食を告げられた時に匹敵するかもしれない。
・・・あ、ひょっとして性欲も関係するのだろうか?
ムラムラ苛々とした感情を押し殺し、先程の者か、追いすがって来た女を向く。
「先ほどぶりですな。今は立て込んでおりますので、通り過ぎて頂ければありがたい」
「無理、無情、無惨を前に看過しろと?出来ません。城を預かる者として」
・・・城?お姫様??
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