ふたり目4

「なぜわかるのです?屍臭でもしますか?」


「それは判ります、だってあなた達はみんな同じようにわらうもの」


同じように笑う・・・人殺しの笑い、というと目の周りに縦線が入ったりという漫画的凶相演出が浮かぶ。


思わずわかるはずもないのに縦線を探し、目の周りを撫でてしまう。


「なにかが付いてるわけじゃない。殺さない人間だって同じ笑い方をします」


殺人童貞もかわらなく笑う、とは・・・言ってることが支離滅裂だな、何が言いたいのだこの女は。


「ただし、食べモノを前にしたとき、虫やとるに足らない生き物を潰した時に」


あ、ああ、なるほど。

腑に落ちた。


「ただ、何人も殺し続けると同じようには笑えなくなる。自分は絶対的な強者じゃない、と思い知らされるから」


あなたの笑みは、と続ける。


「殺しを覚えたばかりの人間が他人へと向ける、純真な天使の笑顔です」


顔が熱くなる。


「いや、お恥ずかしい。ジツは、今この瞬間まで私はひどく有頂天になっていました」


人は操れる、天使に返礼を、などと。

自分の頭の中の事ながら、噴飯物ブバー!!の甚だしい思い上がりであった。

穴は掘れるし埋まれもするが、今はそんな諧謔に逃げるのも要らぬ恥の上塗りにしか思えぬ。


もうこの人の目は見れないな・・・

まさに、秒で制圧されてしまった気分だ。


「では、わたしは去ります。増上慢を気づかせてくれてありがとう」


右手をおなかに添える礼をし、再び道を進みはじめる。


ああ、こんなとき。

手近にサンドバックとなれる弱者が出現してくれたら・・・


恥じるほどの失敗をした時、人に限らず動物ならば手近な弱者を叩き伏せ、自己の肯定感の回復に努めるものである。


恥、怒り、恐怖。


某哲学の大御所はこの三つの心の変化を水の流れに例え、この精神の作用を制御する術理を説いた。


男は女を殴り、女は子供を殴り、子供は虫を潰す。


人が有史以来続けてきた営みの一部だ。



親は子を殴り、子は成長し親を殴る。



いまも目の前を、前から歩いてきたむくつけき大男の三人組が、私の前を歩いていた老人を掴み、目障りだとなじり、道の端へと蹴り飛ばす。


世の中とは、そういうものだ。


ん?



「おい貴様らッ!老い先短い老人にだいじでンギョラァアアアアア!!!」


こういうものは、敵意さえ伝わればよいのだ。


・・・まあ、目の前の男らからすれば、発狂した子供がなんの見世物をするのか、という程度の興味を持つだけだろうが。


とりあえず外見身体能力程度っぽくしゅたたっ、と走り寄り、左端の男の両ヒザを抜いた。


続いて真ん中。


右端の男は処理前、驚きの抜刀速度で私の頭に剣を打ち下ろした。


しかし黒板を引っ掻くような嫌な音がしたのみ、わたしはなんの抵抗も感じることなく、三人全ての男の行動を奪い、道の端へと引き摺ってゆく。


浮き上がらない風船を運んでいるようで妙な感じだ。


何をしたいのか、べたべたと私の服や手足を触るので、仕方なく腕を捥いで治癒魔法で塞ぐ。


達磨になった三人を並べ、さて、どうしようと考え込んだ。


とりあえず、動脈を避けつつ腸を取り出し、ソレで三人を縛り上げるのが鉄板だろうか。


なにか右の腕を叩き続けるうるさい白いものを払おうとしかけ、止まる。


見ると、この三人に転がされた老人だった。




あぶない所だった・・・


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る