ふたり目3
抜けるような青空の下、道を歩く。
なんという爽やかさであろう。
夜を徹して汚物の処理にあたったが、控え目に行って最高の体験だった。
死刑が娯楽だった時代を、野蛮としたり顔で語っていた前世がむず痒いな。
せめて塀の中へ落ちようとも、知ってから評価をつけるべきであった。
・・・いかんな、完全に謙虚さを失っている。
前世でこの快楽を得ようと動けば、わたしはむしろ享楽の餌になるだけであったろう。
いや、なったのか・・・財と子と妻と自分を完膚なきまで潰されて。
いい気になってはいけない。
謙虚さを忘れると、ちょうすごい力など物の数にもならない更に大きな力に潰されてしまう。
それなりの力さえあれば、人間などという機械を操ることは造作もない。
私を操ろうとおもえば、目の前にかわいそうな子供と女を並べてゆくだけで、ほいほいと誘導されてしまうだろう。
いや、そんな手間やコストをかけずとも、誘導しようとする者自体が無力な善人を演じるだけでよい。
わたしは簡単に騙されてしまうだろう。
強き故に。
このちょうすごい力を与え、我をこの世に使わせた天使を名乗る女を思い出す。
そうだ、私はすでに操られている。
彼女は何を望んでいた?
わたしは、彼女の望みを叶えるべきだ。
他人をいたぶり、殺すという欲求を直截に済ませる力をくれたのだから。
ああ、どうかこの目の前に生かしてはおけぬような外道を、この私以外の
・・・いや、作ればよいのだ。
執政の基本だな。分割し治めよ、という・・・なんだったろうか。
二人で一つの肉を前にすれば、片方を肉に変える方法を選んだ者が長く生き、そして栄えたのだ。
などと雑な思考で自己肯定を繰り返し鼻の穴を大きく膨らませながら歩いていると、さっそく道の端で襤褸の塊が踞っている。
死体か?
肉が腐った、強烈な匂い。
アゴの大きさ的に女だろうか。
「ころ・・・して」
動いた。
要求については、遠慮したい。
この様では、どうみても、最後を迎える生命の迸りを発揮できるとは思えないからだ。
元気にすれば命乞いなどを恵んでくれるのだろうか・・・
「なおれ~」
ぱたぱたぱた
腐肉に塗れた美女が出現した。
あ、いかん。
「きれいになれ~」
ぱたぱたぱた
キレイになった()。
ゴシックなコスプレに失敗した美女、という風体にしか見えないが、ここでのファッションシーンはそういうものなのだろう。
美女が肘で上体を起こし、こちらを見つめる。
「おまえは・・・私はどう・・・ここは?」
英語にすると、フ・ワツ・ウェア?という訳になるのだろうか。
私は『何処』にあたるウェアをうぇwwwとしか発音できず、口語でその様であるから歌などで『あなたが居た所へ帰りたい』と歌った場合、最後に来るウェアユウワアがわああうわああとしか発音できず英語ネイティブだった一番目の妻に笑われ非常に悩んだものであった・・・
英語の歌はネイティブと違ってコトバを追わないせいかそれほど妙でも無いという評価を・・・わたしは何故思い出の独白に弁護弁明を開始しているのだろうか。
「何かいいなさい」
「わかりました。マダム」
わたしは柔らかく見えるように心懸けながら口角と下マブタを上げる。
ところが美女は、わたしが言葉を継ぐ前に口を開いた。
「あなた、人を殺していますね」
私の心を焦燥が襲った。
下心を見抜かれた男性のように。
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