ふたりめ
ひたすらに歩く。
夜も、朝も、夕も、そしてまた夜も。
「道というものは、いいものだ」
ただ足を動かせば、前へと進むのだ。
疲れもしない、眠くもならない。
大自然の只中、道だけが人類の軌跡としてひたすらに伸びている。
「ああ、なにか良いなこういうものも」
人が歩き出してから手に入れてきたモノを振り返る。
時間や抽象思考、知識・・・ウソ、宗教、疑惑、罪。
固い音と共に、なにかが道に落ちる。
「これは・・・戦車の徹甲弾か?」
尻に三つの三角形の翼がついた、先の尖った50センチくらいの棒だ。
しかし、木製だな・・・羽もなんで三つなんだ?おもちゃか?
再び、石に固いものがぶつかるような音をたて、同じものが地面へと落ちる。
「上か?」
見上げるが、わずかに薄い雲が漂うだけの蒼穹があるのみだ。
すると、鼻の穴になにかやわらかいものが差し込まれた。
「ふぁ・・・ぶえっくしょい!」
思わず出たくしゃみに、ふたたび固い音が転がる。
ああ、これは攻撃を受けているのか。
拾い上げた棒の尖った先に、鼻汁の粘つく粘液が糸を引く。
飛んできた方へ眼を向けると、男三人がダラダラとこちらへ向かい歩いている。
百メーターはないくらいか。
端のひとりが短めの棍棒に槍の尻をひっかけ、肩に担ぐように構える。
投槍器か?
投擲のフォームが完了すると僅かの時間差で、固い音と共に長柄の槍が私の頭上へと跳ね上がった。
眉間にあたったのか。
やたら命中率いいな・・・
しかし、なぜ弩があるのに投槍機なんて持っているのだろうか。
あちらは立ち止まってしまったので、しかたなくこちらから向かう。
数歩踏み出しただけで、3人の男は背を返し走り始める。
正直言って、大変に気分が良い。
男子として生を受けたからには、目があえば顔を伏せ、声を聴けば縮みあがり、クシャミすればむくつけき大男とで脱糞しながら即死するくらいの威を誇るを夢見たとてむべなるかなというところであろう。
あ、もう男じゃなかったわ。
地を蹴り、飛ぶ。
空気が粘性を持ち、発熱するのが解かる。
独りの男の背に、着地するように足底を乗せる。
スケートボードより快適に、地をすべることができた。
「ううむ、爽快である」
逃げる二人を追い抜いたあたりで急激に速度がおちてゆく。
んん?
見ると、首が無い。
停まり、ひっくり返すと、折れた首を胴の下へと巻き込み、それがブレーキになっていたらしい。
走るのを止め後退る二人に声を掛ける。
「早く走ってくれ。次は頭の上に足を乗せるから」
二人は非常識な悪臭を振りまきながら襲い掛かってきた。
とりあえず即死しないように丁寧に手足を取り除き、傷を魔法で閉じると、首の折れた死体が持っていたクロスボウの矢を二人の腹へと立ててゆく。
全てが終わると、泣きわめく二体の芸術作品が完成していた。
「弱い人間を嬲り、こうして絶望の様を鑑賞するというのは、存外に快いものだな。それが女子供を食む者らとなれば、これはひとしおよ」
いじめや宗教や戦争が無くならないわけだよ。
貧しさが、醜さが、弱さが悪い。
悪ならば気持ちよく殺せる。
みんなで殺せば怖くない。
腕を組んでひとしきり頷くと、鑑賞しながらゾイエで二の腕のうらやうなじをガチガチやる。
なるほど、ちょうすごい力があれば、最後の「みんな」という政治を不要と出来るわけだな。
ひたすら自分だけで、殺しを大ぴらに愉しんでゆける・・・
わたしはこのとき、心から天使(仮)に感謝した。
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