ひとりめ完2(w)
錯乱する男を木の数だけはチャレンジできるからとおだてなだめすかしながら癒しの仕法をなんとか教え込み、井戸の水でひと息を入れる。
「これで、もう子供を失わずにすむのか」
もう、ということはこれまで悉く失ってきたということだろうか。
「・・・子が一人というに理由があるとは思っていたが、それほどに赤児は生き難いのか?」
「ああ、来てくれ」
歩む男を追うと、墓標であろう。
六つの石が草花の中に並んでいた。
思わず言葉を飲み込む。
絶倫ではないか・・・
いや、ゴムがなければこんなものなのだろうか。
子どもが三人超えた時点でこれ以上生でやるならと嫁からのパイプカット要請に応じた知人を思い出した。
「ジェームス、ジミー、ジョニー、ジョーンズ、ジョナサン、ジョージ・・・ジョンは助かったぞ」
J尽くしか。
「ふ・・・」
おもわず、笑いが出ていた。
「なんだ、ここは田舎なんだ。日が落ちれば・・・誰でもこれくらいは生・・・」
涙が落ちる。
「優しいな、泣いてくれるのか。医に携わるものなら死など兵士以上に見慣れてると思っていたが」
痙攣するノドをなんとか沈める。
ちがう、これは私自身を憐れむ涙だ。
「・・・いや、私は一人失っただけで耐えられなかったのに」
「ああ・・・いや、その歳でか?」
「妻も失い、悪徳な業を営む輩に財を奪われ、世の全てを恨んで死んだのだ」
「妻?しかしそなたは」
「一人の、只の男だったころの話だ」
「・・・そうか。誰でも同じだな」
男はため息をつきながら、墓石の一つをなぜる。
誰でも同じ、という言葉が胸に沁みた。
もう自分のみを憐れむのは・・・この涙で最後だ。
おそらくは政争に敗れ、地位を失い社会を追われ、子を犠牲に妻と逃げ延び、安住を得た後も悉く子を失い続けた彼の不幸は私自身の不幸を顧みても察するに余りある。
誰もが敵であり、そして味方。
誰もが不幸であり、逃しがたい幸福が存在する。
感情の因果はこれで完成した。
あとは覚醒した者―――――感情のくびきを脱し社会の檻から解き放たれ、人を、世界を縦横に動かす者達―――――の目をかいくぐりつつ、凡夫の海へと埋没してゆけばいい。
「会えてよかった」
互いに握手を交わし、私たちはそこで分かれた。
街灯どころか舗装すらされていない月明りの夜道を軽い足で進みつつ、腹の音に空腹を気づく。
「あれ?結局感謝しかされてなくない??」
神の奇跡を施したというのに口八丁で追い返され彼個人の背景を勝手に妄想し勝手に満足したまま上機嫌で夜道をただ歩く自分に呆れるほかなかったのであった。
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