ひとりめ完
「ありがとう、この恩は忘れない」
忘れないという言葉は、人は忘れる生き物だ、という証明でもある・・・などという言葉を、どこかで見た。
「感謝なればわが師アスクレピオスと―――――女神ソラへ」
医聖の上は太陽神だっけ、と記憶を手繰りながらでもコッチの神様だか天使は女だったしパイエオンは女性系の変化わからんしな・・・と、適当に太陽熱利用商品群の看板を拝借する。
「ソラ・・・スオラ女神か。そなた、アルビヲンの者か?」
オトコの眉間に皺が寄る。
「私に俗世のしがらみは無い故、スオラ、アルビヲンというものを知らぬ。しかしあなたは言葉遣いからして、日々大地自然を相手に暮らす者に相応しからぬ贅沢な語彙をもつようだな」
男の眉間が開く。
家族三人というのも違和感がある。
こんなところにコンドームも無しに暮らして子供一人ですむものかよ。
「ふ、恩人と口にしながら二言目には詮索の無礼。どうか許されよ」
「この姿を侮らず、礼儀と弁えを持つ人物と接すのは楽で良い。この場限りの気まぐれではあるが、女神ソラの奇跡を授からんか?」
「奇跡だと・・・あなたの力か、先ほどの」
「そうだ」
目の前の男の心臓辺りに渦を巻く光が感じられる。
その光は、明滅の鼓動の度に全身に伸びようとするも何故か四肢の網目に繋がる前に散ってしまっている。
「金なら無いぞ」
思わず吹き出してしまう。
「ああ、この場の一瞬限り、ただ私の手を握るだけだ」
「頂こう。有難く」
伸ばされた男の手を、豆腐細工(そんなもの見たことも無いが・・・)を扱うように掴み返す。
手から心の臓へと、散っていた千や万もの光を思うように動かし、つなげてゆく。
「不調はないか?」
「ああ、身が軽くなってゆく気はするが・・・」
全ての光が繋がり、一瞬強く輝くと心臓へと収束し、消えた。
ほんの僅かではあったが、空気中に発生する導電通路のようなものが薄く光った。
ああ、これは不味いモノをつなげてしまったのかもしれない。
「・・・私の手を、このまま強く握ってすこし振ってみてくれ」
「ああ・・・ん、なんだこれは」
男はぐらりと体を揺らし、慌てて両脚をひろげ安定を試みていた。
酔って妻の腕を引っ張ったら銅像だった時の私同様の動揺ぶりを見て安心した。
「ああ、平気だったか」
あの女神と繋がってこのちょうすごいちからまで使いたい放題になってしまったのかと肝を冷やした。
「では、いまこの幹に私が付けた傷に向かって―――――そうだな、女神ソラよ、私に信仰をお授けください、と言ってみてくれ」
「あ、ああ・・・んっ、ん。女神ソラよ。我に信仰を授け賜え」
その場に光が爆散し、幹に押し付けた男の手から一条の巨大な光が太い幹を爆砕し伸びていった。
光線は闇夜の空を真昼の青へと変えながら彼方の空へと伸びてゆき、地平にそびえる山の上の雪を溶かし、雲をめたくそに吹き散らしながら宇宙へと消えて行った。
「・・・ひょっとしてそなた、この木になんぞ恨みでもあったのか?」
いや、異世界にきてマ◎ロスの主砲の演出を見ることになるとは思わなかった。
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