第5話私はこのまま好きでいたい

「ねえ、ここでいいよ」


「どう、したらいい?」


「ハグだけお願い。」


孝俊くんはこれで最後なのに今までで1番私に近付いて


私を抱きしめた。


「もういいよ。ありがとう。」


「え?もういいの?」


「いいよ。」


「最後に、ずっと好きだよ。それだけ伝えたかったから。そんなに時間掛けたくなかったんだ!」


「じゃあ、今までありがとう。」


結局、忘れることなんてできなかった。最後のお金を私は取り出そうとした。


────待って!


孝俊くんの声に手が止まった。


「まだ我慢してるんでしょ?教えてよ、じゃないと俺もスッキリしないから。全部吐き出してよ。それでいいから!」


「孝俊くん、本当はね私もっと一緒にいたい、何も忘れられてなんてないし、忘れたくないよ...本当はまだまだやりたいことあるし、」


「これが全部嘘でも、設定でも、物語でもいい、なんでもいいから孝俊くんの近くにいたい。それが私の1番の理想だから...」


「ねえ、もう一回だけハグ、したいな。」


「うん。いいよ。」


今度はさっきよりずっとずっとゆっくり抱きしめてくれた。


その時────孝俊くんのスマホから音が鳴った


「あれ?今日の時間もう過ぎちゃったんだ。」

孝俊くんがそう言って私から手を離した。


「孝俊くん...バイバイ。」

さっき取り出そうとしてたお金を一気に出して孝俊くんに渡した。


「ありがとうございました。ぜひ、また、レンタル彼氏をご利用ください。」


返事は間に合わなかった、孝俊くんはすぐ走って行ってしまった。


誰かに電話を掛けながら、その電話相手の妄想が1人、勝手に広がっていった。


いつも、連絡しているレンタル彼氏のホームページに彼はもう居なくなっていた。


私は無意識に電話を掛けてしまった。


「あの、孝俊くんってもう、辞めたんですよね。」


「はい。そうですよ、ちょうど今日で終わりです。」


「もしかして、孝俊くんのような人をお探しですか?でしたら、最近入った、恭吾きょうごくんも同じ設定せっていでやってる子ですよ!」


「そうですか...ありがとうございます。」


私はまた無意識に電話を切った。


寒いはずなのにそんな事も忘れて夢中になりながら私は検索していた。


ネットの動画の中に大量の失恋ソングが表示される。


スマホのネットの履歴の中にレンタル彼氏の履歴がたくさんあるのを見ながら


私は動画を開いた。


でも変だ。なんでだろう、何一つ共感できる歌がない。


私は腰掛けていたベンチから立って履歴にあったレンタル彼氏のホームページを開いて、


孝俊くんに似ているという恭吾くんの写真を見ながら


財布の中身を確認した。

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好きと言ったのに、なんで?せめて最後に理想を叶えて─── 学生作家志望 @kokoa555

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