第2話 壇上は処刑場


 壇上に立つB先生は、体育館に集まった生徒たちを睨みつけて、こう言った。

 「お前らの中で、こいつらが、公園に集まってケンカしようとしていたことを知っていたヤツがおるやろ。

 そんなことを知ったら、すぐに先生たちに報せるのが当たり前やろが!

 体育館にくる前までに、このことを知ってたヤツは、全員、壇上にあがれッ!」


 B先生の言葉に、二十人ぐらいの生徒が渋々と立ち上がった。

 けっこう多い。

 Aくんの姿がある。女子生徒も数人いた。

 立ち上がった生徒たちは、のろのろと壇上へと向かう。

 

 「お、おれもか?」

 М田くんの顔が引きつる。

 これはなかなか難しいところであった。


 B先生の言葉の意味は、もう少し詳しく説明するとすれば、こんな感じであろう。

 決闘が行われることを知っていたヤツが、知った時点で先生たちに報せれば、警察沙汰になることなく、先生たちが止めることが出来た。

 だから同罪である。

 今からしばく。


 ただ、それだけに限定すると、「体育館にくる前までに、このことを知ってたヤツ」という言葉に、ちょっと不自然さを感じる。

 その場合、少し回りくどい言い方になるが、「ケンカが始まる前までに、このことを知っていたヤツ」という言葉になるのではなかろうか。

 それをわざわざ「体育館にくる前まで」にという言い方にしたのは、前記とは別に、こんな意味も含ませていたのかも知れない。


 たとえ、ケンカが流れた後、日曜日の夜であっても、そんなことがあったと知ったのなら、すぐに先生に報せるべきだろ。

 そうすれば、警察から連絡が入る前に、先生たちで色々と手を打つことも出来た。

 だから同罪である。

 今からしばく。


 こういう意味を含んでいたから、「体育館にくる前までに、知ってたヤツ」と言う表現になっていたのかもしれない。

 どっちにしても、M田くんは含まれない。

 ただ、あくまで推測である。

 言葉の意味、そのままに捉えるなら、教室から体育館に来るまでの間、Aくんから話を聞いたМ田くんも「体育館にくる前までに、知ってたヤツ」に含まれる。


 「体育館に来る前に知ってたやん」

 「いけいけ」

 「いってらっしゃい」

 無責任なクラスメイトの言葉に押されて、M田くんは情けない顔で壇上にあがった。

 これ、あと5秒ほどでも早く、覚悟を決めて壇上にあがっていたら、M田くの運命も変わっていたかも知れなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る