先生。指導でも体罰でも無く、それは、ただの暴力ですよ。

七倉イルカ

第1話 無関係なM田くん


 時代だったのか、それとも地域性もあったのか、私が通っていた中学校には、暴力をふるう先生が何人もいた。

 暴力はふるわないけど、今、考えても、頭がおかしいんじゃないかという言動の先生もいた。

 当然、ぶん殴られても仕方ないことをしている生徒もたくさんいたわけだが、非が無いのに殴られている生徒もいた。

 思い出すのはM田くんのことである。

  

 М田くんは、小柄で人当たりが良く、いつもニコニコとしている男の子であった。

 身が軽く、腰も軽い。

 そのМ田くんに災難が降りかかったのは、三年生のときである。


 月曜日。

 そろそろ一時限目が始まるかなという時間に、三年生は全員体育館へ集まるようにという放送が流れた。


 私たちは、ぞろぞろと体育館へと向かった。

 クラス別に並び、冷たく硬い床に座る。

 「何なん?」

 「何かあるんか?」

 なぜ体育館に集められたのか分からない私たちが疑問を口にしていると、М田くんが答えを持っていた。


 「さっき、1組のAに聞いたんやけどな……」

 М田くんが、Aくんから聞いた内容はこうである。

 我が中学校の三年生の不良たちが、隣り中学の不良たちとモメたらしい。

 で、昨日の日曜日、□□□公園で、決闘することになったと言うのだ。

 双方、二十名近い男子生徒が集まり、中には木刀を持ってきた生徒もいた。

 合計40名。


 たぶん、今、現役の中学生に、このことを話すと、「マンガの世界かよ」と、呆れるんじゃないだろうか。

 ちなみに、当時の私の感想も「マンガの世界かよ」であった。

 当時であっても、数十人が集まっての乱闘なんて、リアリティが無かったのである。

 でも、昨日、それが行われようとしていたらしい。

 が、公園の近所の住人が、危ない雰囲気の中学生集団に気付き、警察に通報。

 サイレンの音が聞こえ、全員、逃げ出し、乱闘にはならなかったと……。


 「マジか?」

 まだ信じきれなかったが、ちょうどそのとき、学年主任や体育教師と共に、体育館の檀上、舞台袖から、二十人近い男子生徒がぞろぞろと現れた。

 全員、不貞腐れた顔をし、ほほが赤く腫れている。

 ……ああ、これはマジだ。


 学年主任のB先生が、めちゃくちゃ怒った顔で、昨日、何が起きたかを説明した。

 M田くんの説明とほぼ同じである。

 今、ほほを腫らして壇上に立っているのは、そのとき、公園に集まったメンバーと言うことだった。


 で、ここからである。

 無関係なM田くんに、災厄が訪れたのは……。

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