バス停「雨宿」待合奇譚

赤葉 小緑

第1話 心の安らぎを求めて

 私、小日向陽子こひなたようこは高校の理科教員である。生物の授業を担当して、今年で教師生活7年目のアラサーでもある。

 連日、我が身に降りかるメタクソな出来事で、今、私の心は疲弊ひへいしきっている。

 崩壊寸前のクラスでの授業。いじめ、喧嘩、喫煙などの生徒指導案件。

 不登校生徒の精神的な援助。保護者からのクレーム対応。手を抜くことが許されない事務仕事など。

 ストレス、ストレス、ストレスの波状攻撃はじょうこうげきを受けている。

 以前は、一晩寝ればリセットできていたストレスもここ数年、おりのように心の底に積もり続けて……積もり続けて……。

 ああ! もう嫌だ! 何もかもやめちまいたい! と叫んではみたけど、ストレス解消にはならず。


 とある休日、鬱屈うっくつした気分の転換をはかろうと、私は突発的にドライブに出た。


 ただただ、行き先も決めず風の吹くまま気の向くままに車を走らせる。

 少しは、気分が晴れかけたところで、ボンネットから白煙発生。何かわらんがヤバいと思った私は、車を道の端に寄せ停車した。以後エンジンがかからない。メカ音痴な私は、即ロードサービス頼みで、ケータイを手に取るも『圏外』の表示あり。ここは、基地局もない田舎いなかってこと? 

 じっとしていても助けが来るわけでもなし。私は車を降りて周りを見渡した。よく晴れている。山、田んぼ、春の小川。何と牧歌的な風景。とりあえず人の生息していると思われる方を目指して歩くしかない。そのうち車が通りかかるかもしれない。その時はヒッチハイクだ……。

 で、とぼとぼ歩いているうちにあの鬱屈した気分が戻って来た。

「ああ! もう嫌だ! 何もかもやめちまいたい!」

 叫んでみても詮無せんないことで、私は不快な思いを引きずって、どこに行くか分からない、田舎の一本道をひたすら歩いた。


 どのくらい歩いただろうか。私は、ポケットからケータイを取りだし時刻を確認した。午前11時40分。車が故障したのが午前10時くらいだったから、1時間40分近く歩いている。その間出会った人間なし。および通りかかった車もなし。相変わらず周りの景色は、のどかの極みだ。家どころか納屋なやすら見えない。ひたすら田んぼ田んぼ。道はその中を一直線に続いている。


 その直線道をたどっていた時だった。

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