第34話 孤高のエルフに私を追放した座長の危機を告げられて、助けるか助けまいか判断に悩みます。

「久しぶり……面白いな」

 拍手に混じって聞こえたのは、ルイレムさんの声だった。

 フードで顔を隠していたので、周りの人もエルフだとは気づかなかったのだろう。

 それでも、イフリエは警戒した。

「返事をしないで……」

 確かに、ルイレムさんとのつながりを客に悟られたら、一座から逃げたお尋ね者だとバレるおそれもある。

 宰相のプリースターに知られたらおしまいだった。

 それでも私は、立ち上がって帰る客の間を縫って、孤高のエルフに駆け寄っていた。

「いつか来ると思ってました」

 似たようなやり取りが延々と繰り返される不条理劇のスタイルでコントをやったのは、これが狙いだった。

 ルイレムさんのスタイルが使われているという噂を聞けば、必ず見に来て味方についてくれると踏んだのだ。

 だが、返事は素っ気ないものだった。

「退屈していたんでな」

 声の疲れから劇団の様子は察しがついたので、当たり障りのないことを尋ねた。

「街はどうですか?」

 ニーズを掴めば、次の公演のヒントになる。

 ルイレムさんは見たまま、感じたままを正直に答えてくれた。

「人々の鬱憤が溜まってな。くだらない騒ぎに若者がうつつを抜かしてる」

 下手な熱狂は、かえって魔王の手先となる狼男の出現を誘発させかねない。

 その魔王を討伐しようとしている女王タウゼンテにしてみれば、いちばん嫌いで、いちばん避けたいことだろう。

 移動劇団「異世界」に公演を依頼したのは、魔王討伐から注意をそらすだけの力を認めたからにほかならない。

「見に来ないんですか? 誰も」

「いつ契約が切られるかと、座長もびくびくしているところだ」

 切羽詰まると何をするか分からないのがホーソンだ。

「じゃあ、いずれ私たちをまた追い出しに?」

 それが失敗したとしても、怪我などさせられた日には泣くに泣けない。

 実際、人の血をすする魔王を討伐するための先頭に立つ、宰相のプリースターに売り渡されるところだったイフリエがつぶやいた。

「暗い路地で後ろからガツンと……」

「それはダメ、ソレだけは」

 強くたしなめると、イフリエは不満げに目をそらした。

 だが、ルイレムさんは気にした様子もなく、淡々と告げる。 

「ホーソンが来たら、頼みを聞いてやるといい」


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