地下アイドルから声優目指しましたがオーディション落ちて異世界旅芸人一座も追放されて、魔人美少年とバディ組んでリベンジしました
第33話 異世界、というか私の世界からテクニックを持ち帰った魔神美少年が客席を沸かせます
第33話 異世界、というか私の世界からテクニックを持ち帰った魔神美少年が客席を沸かせます
客の前で調子づいたのか、イフリエは思いもかけないことを言い出す。
「死後の世界は関係ない」
まさに古典落語の展開だったのに驚いて、素のままのセリフが出た。
「何で知ってるの?」
「ケチな金持ちに聞いた」
即興の苦手なイフリエと思えないカンの良さだった。
次の台詞も繰り出しやすい。
「何で生き返ったの?」
「地獄の王様に賄賂贈ったのバレたから」
ここは、5W1Hを尋ね返してやるだけで話が進む。
「誰に?」
「天国の神様」
本当は、元の話を知っているんじゃないだろうか。
それならそれで、話が早い。
「捕まらなかったの?」
イフリエは、芸能事務所での特訓で身に付いた、あの変幻自在の声で敢えて淡々と答える。
「賄賂ニセ金だったから」
その絶妙の間と、声のトーンの変化に、観客はどっと笑う。
「それで何で生き返れたの?」
私の合いの手に客席が再び湧く。
イフリエは、さらに天然系のおバカキャラで、とんでもない展開を訥々と語った。
「地獄の王様捕まったから」
狙い通りの笑いなど気にもならないふりをして、私は再び尋ねる。
「何で捕まったの?」
「賄賂のニセ金配ったから」
知ってか知らずかイフリエの返答には言葉が足りないので、芝居は続けやすかった。
「誰に」
「手下に」
短い受け答えだけで笑いを取れたので、さらにツッコんでみる。
「どんなの?」
「角とか羽根とか生えてたり、子どもだったりロバだったり、でっかい魚だったり」
「みんな捕まったの?」
もっともらしく相槌を打ってみせと、イフリエが大きく頷いた。
「みんな」
理屈では説明のつかない笑いが、どっと起こる。
話のヤマを持ってくるには、絶好のタイミングだ。
「地獄は?」
思い出したように観客席が静まりかえる。
イフリエは相変わらずの平然とした口調で答えた。
「誰もいない」
そういえば、という雰囲気の観客を前にイフリエを真似て、ぼそりと答えてやった。
「死ぬなら今じゃん」
これが古典落語なら、客席はどっと沸くところだ。
だが、イフリエはその隙を与えなかった。
「だからそう言ったじゃん自分で」
思わぬ展開に、苦し紛れの返事をする。
「でも生きてるから」
「だから、今っていつ?」
問うものと問われるものが入れ替わって、観客が息を呑む。
イフリエの頭を押さえて一礼すると、その鮮やかなオチに気付いたのか、狭い納屋が壊れそうな勢いで拍手が沸き起こった。
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