第32話 魔人美少年とひとつ屋根の下に隠れ住んで、コントライブでの再起を図ります

 とりあえず、タウゼンテは私たちの隠れ家を用意してくれていた。

 街外れの古ぼけた小屋に自ら私たちを案内してくれた。

 遠くから見張っていた鉄兜の兵士たちが近づくと、去り際にこう言い残した。 

「残念ながら、街の人々は気づきはじめています……兵士たちが何かを探していることに」

 ホーソンの興業は、人々の目を魔神討伐からそらすには足りないということだ。

 そこでイフリエを見やったのは、ダンピールだということを既にプリースターから聞いているからだろう。

 人の生き血をすする魔神と、吸血鬼と人間の間に生まれたダンピール。

 もっとも疑わしいつながりに、女王自らが目をつぶってくれているのだった。

 だから、私は感謝を込めて答えた。

「大丈夫です……ちゃんと客を集めてみせますから」

 タウゼンテは、何も言わない。

 ホーソンに興行を任せているという建前上、私たちへの肩入れは口にできないのだろう。

 

 その晩のうちに、私たちは稽古を始めていた。

 狭い納屋の中に座り込んで、堂々巡りのセリフを繰り返す。

「死ぬなら今なんだよ」

 アイデアの元は、古典落語だ。

「いつ?」

 とりあえず聞き返してきたイフリエに、同じ言葉を繰り返す。

「今」

 イフリエが、苦し紛れの即興を始める。

「さっきなら今じゃない」

「じゃあ、いつ?」

 私は同じ言葉を繰り返すだけでよかった。

 こんなのは芝居にならないと思うのは素人だ。

 見せるやり方が、ちゃんとある。

 意味のないことを見せる、不条理劇というスタイルだ。

 問題は、これが異世界で通用するかどうかということだが……。


 こんなやりとりを繰り返していたある日のことだった

 口元に指を立てて私の言葉を遮ったイフリエが、そろそろと歩み寄った扉をいきなり開けたのだった。

 外で聞き耳を立てていたらしい何人かが、納屋の中へと転がり込んでくる。

 イフリエが、まさに千両役者のように微笑んで声をかけた。

「いらっしゃいませ」

 これが、アサミ&イフリエによるコントライブの始まりとなった。

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