第35話 女王様の策略で魔人美少年との逢引の疑いをかけられましたが、おかげで追手から逃げられました

 プリースターがやってくるまでの間にやってきた、宿の主などは呑気なものだった。

「あの……そのお若い方々は、その……お泊りで」 

 まるで逢引でもしているかのような言い方だった。

 そこへ、呼びつけられたプリースターが不機嫌そうに、お忍びの女王への苦言を呈する。

「いかなるおつもりでしょうか? ダンピールの疑いがございますのに」

 イフリエへの冷たいまなざしを遮るように、タウゼンテはきっぱりと言い切った。 

「私たちが戦う相手は血を啜る魔神です」

 だが、プリースターは平然と言い返す。

「ダンピールも血を啜りますれば」

 金と黒の混じった髪の房を晒して立ち上がったイフリエを私が押しとどめると、プリースターは勝ち誇ったように尋ねた。

「なぜ、かばいなさる? 君主のなさることとは思えませんが」

 タウゼンテはしばし唇をかみしめていたが、やがて、プリースターに命じた。

「宰相の手の者が行き届かぬ故、自ら探しに出たのだ……この者どもを捕えよ!」 

 宿屋の主人が年の割に凄まじい速さで奥へと後ずさる。

 だが、その目がタウゼンテの目配せを捉えていたのを私は見逃さなかった。

「イフリエ!」

 促すまでもなく、彼にも察しがついていたようだった。

 プリースターを待ったのは、時間稼ぎだ。

 宿屋の主人は逃げ道を塞ぐかのように勝手口を背にしたが、私たちは「逢引に空けてあった」2階の部屋へと駆け込む。

 開け放たれた窓の向こうに続く屋根に向かって、私を小脇に抱えたイフリエは跳んだ。

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