第34話 パワハラ座長不在の宿舎に逃げ込んだら追っ手に見つかりましたが、女王様が権力ざまあを発動してくださいました

 夕闇が迫る中、私たちがタウゼンテに導かれて駆け込んだのは、あの宿屋だった。

 満席の客をちらっと眺めて、イフリエは呻く。

「フードは目立つし、逃げ道がない」

 入口から踏み込まれたら勝手口だけ、客室に逃げるのは論外だ。

 さらに、私にも心配はあった。

「ホーソンがいるんじゃない?」

 一座にいた者の背格好は覚えているだろう。

 追手が来なくても見つかってしまうかもしれない。

 早く出ようとイフリエが急かすのを、お忍びの女王タウゼンテは押しとどめた。

「あの座長はいません」

 聞けば、私とイフリエが消えてから、焦って追加メンバーを探し回っているのだという。

 さらに付け加えるには、こうだ。

「私が金を出している場所に踏み込むこともないでしょう」 

 だが、言ったそばから酒場の入り口が開いて、プリースターの配下が踏み込んできた。

 ひとり、またひとりと、首実検をされた客が出ていく。

 イフリエが舌打ちした。

「下手に逃げたら疑われるだけだ」

 タウゼンテが苛立たしげにつぶやく。

「私の許しもなく……なんと容赦のない」

 その間にも、プリースターの配下は迫ってきた。

「イフリエとアサミだな」

 ご丁寧に突きつけられた人相書きから逸らした目で合図すると、イフリエも黙秘権を行使した。

 もっとも、この国にそんなものがないことは、女王がいちばんよく知っている。

 フードをはねのけて立ち上がると、ひれ伏した男たちに毅然とした声で命じた。

「プリースターを呼びなさい」

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