第26話 異世界に戻っても逃げ隠れせず、魔人美少年とアバンギャルドな街頭劇に挑戦しました

「着いたよ」

 イフリエの声で目を覚ますと、そこは2トントラックの助手席だった。 

 手伝ってと言うので外に出てみると、木橋が架け直されていた。

 逃げた後で時が経っているのだろう。

 コンテナの中から取り出したブルーシートの端を持たされて、トラックを覆う。

 それが奇術のように消えた向こうから、イフリエが呼びかけてきた。

「ノームがくれたんだ。どういう仕組みかわかんないけど」

 光学迷彩みたいなものなのだろうか。

 

 イフリエと、お揃いのフード付きマントを羽織って遠い道を歩く。

 こっちは姿が消えたりしないが、陽の光と人目を避けて街へ入るには充分だった。

「危ないとは思うけど……魔神と戦うんなら、戻ってくるしか」

 イフリエは私に謝ったが、道行く人は目を反らし合っている。

 たまにひそひそ話しても、私たちを見てはいない。

 下手に逃げ隠れして怪しまれないように、こっちから話しかけてみた。

「遠くから、 呪われ皇子見に来たんだけど」

 知らん顔して急ぎ足で去るのは、日が暮れるからというばかりではなさそうだ。

 誰もが、芝居を見る余裕などないように見えた。


 そこで、イフリエが突然、私の手を取った。

「探しましたぞ、姫君」

 たいした度胸だった。

 敢えて街頭劇まで始めるとは……。

「人違いでございましょう」

 調子を合わせて、するすると逃げてみせる。

 芝居だと気付いたのか、ひとり、ふたりと立ち止まりはじめる。

 フードで顔を隠した私たちは今、謎の大道芸人となっていた。


 そこで、イフリエが突然、私の手を取った。

「探しましたぞ、姫君」

「人違いでございましょう」

 調子を合わせて、するすると逃げてみせる。

 芝居だと気付いたのか、ひとり、ふたりと立ち止まりはじめる。

 フードで顔を隠した私たちは今、謎の大道芸人となっていた。


「待ちな……か弱い娘さんをかどわかそうとは不届き千万」

 乱入してきたのは、やはりフード付きマントを羽織った若者だった。

 するすると歩み寄って、囁きかけてくる。

「お帰りなさいませ」

 女王タウゼンテの声だと気付いたとき、イフリエが私たちの間に割って入った。

「邪魔だてすると……」

 言ったそばから、タウゼンテに薙ぎ倒されて皮肉を浴びせられる。

「おっと失礼……お引き取りあれ、お客様と」

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