第32話 異世界に戻っても逃げ隠れせず、魔人美少年とアバンギャルドな街頭劇に挑戦しました

「着いたよ」

 イフリエの声で目を覚ますと、そこは2トントラックの助手席だった。 

 手伝ってと言うので外に出てみると、木橋が架け直されていた。

 逃げた後で時が経っているのだろう。

 コンテナの中から取り出したブルーシートの端を持たされて、トラックを覆う。

 それが奇術のように消えた向こうから、イフリエが呼びかけてきた。

「ノームがくれたんだ。どういう仕組みかわかんないけど」

 光学迷彩みたいなものなのだろうか。

 

 イフリエと、お揃いのフード付きマントを羽織って遠い道を歩く。

 こっちは姿が消えたりしないが、陽の光と人目を避けて街へ入るには充分だった。

「危ないとは思うけど……魔神と戦うんなら、戻ってくるしか」

 イフリエは私に謝ったが、道行く人は目を反らし合っている。

 たまにひそひそ話しても、私たちを見てはいない。

 下手に逃げ隠れして怪しまれないように、こっちから話しかけてみた。

「遠くから、 呪われ皇子見に来たんだけど」

 知らん顔して急ぎ足で去るのは、日が暮れるからというばかりではなさそうだ。

 誰もが、芝居を見る余裕などないように見えた。


 そこで、イフリエが突然、私の手を取った。

「探しましたぞ、姫君」

 たいした度胸だった。

 敢えて街頭劇まで始めるとは……。

「人違いでございましょう」

 調子を合わせて、するすると逃げてみせる。

 芝居だと気付いたのか、ひとり、ふたりと立ち止まりはじめる。

 フードで顔を隠した私たちは今、謎の大道芸人となっていた。

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